富公:病院開設中止勧告事件判例(最判平成17年7月15日)は、勧告の「処分」該当性について、どう判断しましたか?
流相:まず、結論として、
勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる
流相:としました。
富公:結論はそうですね。
では、
(1)判例は、勧告と法効果との間に‟直接性”を認めたのでしょうか?
(2)そうでない場合、何故、最高裁はこの勧告が「処分」に該当すると判断したのでしょうか?
この順番で検討しましょう。
まずは、(1)からです。
どうでしょうか?流相くん。
流相:う~ん・・・
良く分からないんです。
富公:小早川光郎・宇賀克也・交告尚史編『行政法判例百選Ⅱ[第5版]』(有斐閣、2006年)の344頁にある、<判旨>(ⅰ)を読んでください。
流相:はい。
「医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているけれども、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。」
流相:とあります。
富公:この判旨部分で重要なポイントは、
相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす
富公:という部分です。
勧告主体である都道府県知事の判断に厚生大臣(現在は厚生労働大臣)は法的には拘束されないが、都道府県知事の勧告(判断)があれば、「相当程度の確実さをもって」保険医療機関の指定が拒否される、と言っているわけです。
あくまでも、事実上、厚生大臣は都道府県知事の判断を尊重する、ということです。
最終判断はあくまでも厚生大臣にあると最高裁は考えているのです。
流相:しかし、富公先生、
都道府県知事が勧告をすれば、事実上、ほぼ自動的に保険医療機関指定が拒否されるということは、厚生大臣は都道府県知事の判断に実質的に拘束されている、と解釈してもいいのではないでしょうか?
富公:なるほどね。
神渡:ですが、やはり法的には、厚生大臣に保険医療機関指定の拒否判断があると思います。
刑法の間接正犯の例でいうと、
道具として利用された人(被利用者)は、背後者(利用者)の言いなりであって、被利用者独自の判断は何もしていません。だから背後者が正犯とされたわけです。
しかし、たとえば、背後者Aが甲を殺すようにBに言った場合に、BがAの指示を受けて自分も甲に恨みがあったからこの機会に殺してしまえと決意して甲を殺害した場合、
A⇒B⇒甲
Bは独自の判断をしていますから、Aは正犯ではなく、教唆犯になります。なお、共謀共同正犯は成立しない場合としておきます。
事実上勧告不服従の事態があれば保険医療機関指定が拒否されるとしても、勧告不服従が指定拒否事由であるとの明文がない限り、勧告に保険医療機関指定がなされないという法効果を発生させる最終性はないと思います。
流相:しかし、当時、健康保険法43条の3第2項は、
保険医療機関・・・トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ
流相:と規定していました。
そして、勧告に従わずに病院開設を行った場合、この健康保険法43条の3第2項に該当すると通達されていました(『行政法判例百選Ⅱ』344頁)。
そうすると、厚生大臣は法的にも都道府県知事の勧告(判断)に従うことになり、勧告判断の最終性が認められるのではないですか?
神渡:そういう通達があったんですね。
阪奈:でも、この通達は、厚生大臣が定める規範、少なくとも都道府県知事が定める規範ではないはずです。
そうすると、その通達を定めた主体(厚生大臣)の判断に従って指定拒否がなされるわけですから、先ほど神渡さんが例に挙げた教唆犯の場合と同様、厚生大臣の通達を定めた判断が保険医療機関指定がされないという法効果の最終判断ということになると思います。
富公:先の最高裁判決は、今阪奈さんがおっしゃったような判断をしたのだろうと思います。
ということで、(1)勧告と法効果との間に‟直接性”はない、ということになりました。
では、(2)何故、最高裁は、この勧告を「処分」に該当すると判断したのでしょうか?
---次回へ続く---