富公:要は、個別行政法が、法律要件該当性判断の主体として国家を想定しているかどうか?ということです。
国家が法律要件該当性判断の主体である、と明文で規定されていない限り、国家は「公権力の主体」にはあたらない、ということです。
具体的な個別行政法で見てみましょう。
まずは「公権力の主体」にあたる個別法から。
流相君、水道法の6条1項を見て下さい。
なんて規定されていますか?
流相:え~と、
水道事業を経営しようとする者は、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
流相:と規定されています。
富公:そうですね。
水道事業を経営するには認可が必要なのですが、その認可主体は
「厚生労働大臣」
なわけです。
では、認可基準の規定はありませんか?
流相:あっ、
「認可基準」として第8条があります。
第八条 水道事業経営の認可は、その申請が次の各号に適合していると認められるときでなければ、与えてはならない。
一 当該水道事業の開始が一般の需要に適合すること。
二~七 省略
2 省略
富公:ありますね。
その基準該当性は誰が判断するのでしょうか?
流相:たとえば、水道法8条1項1号は水道の需給要件といえます。水道事業の開始がこの需給要件を充たさないときには、認可が与えられないという規定になっています。
そして、認可主体は先ほどの6条1項によると、厚生労働大臣です。
ということは、水道法6条1項と8条とを合わせると、厚生労働大臣が需給要件該当性の判断権を持っているということが明らかです。
富公:そうなりますね。
ということは?
流相:ということは、この「認可」は、「公権力の主体」たる国・公共団体の行為ということになります。
富公:そうですね。
この「認可」は公権力主体としての国・公共団体の行為としてなされているので、「処分」要件の1つ(公権力性)を充たします。
この「認可」が「処分」に該当するかは、他の「処分」該当性判断を経なければなりませんが、今は置いておきましょう。
では次に、水道法の15条を見て下さい。
「給水義務」の規定です。
15条1項は何と規定されていますか?
流相:15条1項ですね・・・
(給水義務)
第十五条 水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
富公:ここで、
「給水契約」
という文言がありますね。
水道事業者と需要者間の給水関係は法的には契約なのでしょうか?それとも「処分」なのでしょうか?
流相:法律に「契約」と規定されていますから「処分」ではなく契約なのではないでしょうか?
富公:それは分かりませんよ?
法律に「許可」と書かれていても講学上の“許可”にあたらないことも多々ありますからね。
「処分」要件に該当するかを検討する必要があります。
神渡:ということは、給水契約が「公権力の主体」たる国・公共団体の行為であるかどうかを確認する必要があるということですね?
富公:そうです。
どうなりますか?
神渡:水道事業者が需要者との間で給水関係に入ってよいかどうかの要件が見あたらないのですが・・・
阪奈:しかも、水道事業者は「正当な理由がなければ」給水契約の申し込みを拒んではならない、と規定されています。
この「正当な理由」がどういう場合なのかは水道法に規定がありません。
富公:ということは?
阪奈:ということは、給水のお願いがあれば水道事業者は自分の判断で給水を拒否するということができません。
「正当な理由」があるか否かは裁判所が判断するという仕組みになっており、水道事業者(公共団体)に判断権はありません。
ですので、給水関係に入るか否かについて公共団体は法律要件該当性判断の主体ではないことになります。
水道事業者は公共団体ですが、結局給水関係においては水道事業者は「公権力の主体」ではないということになります。
神渡:なるほど!
「水道契約」というのは、文字通り“契約”であって、「処分」にはあたらないということになるのですね。
富公:“公権力主体”の要件はあまり基本書にも書かれていない部分ですが、“契約”と“処分”を分ける要件として重要ですので、是非今日で押さえておいてください。
いよいよ、他の「処分」要件に進みましょう。
---次回へ続く---