富公: 先の最高裁判決は、今阪奈さんがおっしゃったような判断をしたのだろうと思います。
つまり、通達を定めた主体(厚生大臣)の判断に従って指定拒否がなされるわけですから、先ほど神渡さんが例に挙げた教唆犯の場合と同様、厚生大臣の通達を定めた判断が保険医療機関指定がされないという法効果の最終判断ということになると思います。
ということで、
(1)勧告と法効果との間に‟直接性”はない、ということになりました。
では、
(2)何故、最高裁は、この勧告を「処分」に該当すると判断したのでしょうか?
阪奈: それは、実質的な考慮からだと思います。
富公: どういった考慮ですか?
阪奈: 判旨によりますと、
勧告に
従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす・・・。
・・・保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ない
阪奈: という事情を挙げています。
富公: そうですね。
しかし、勧告が「処分」に該当しないのであれば、指定拒否を対象に取消訴訟を認めれば足りるのではないですか?
阪奈: それでは病院開設者にとても不利益が及びます。
といいますのも、病院開設者が、保険医療機関の指定申請をするには、病院建設や人員の確保などをあらかじめ完了させておく必要があります。
保険医療機関の指定申請をするには、政令で定めるところに従った申請が必要です(健康保険法65条1項)。その政令は、保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令で、この省令3条に規定があります。
たとえば、「病院」の場合は「使用許可証」が必要です(同省令3条1号)。
「病院」であるためには、人員と設備が必要です(医療法21条1項各号)。
そして、「使用許可証」の交付を受けるには、構造設備について「都道府県知事の検査」が必要です(医療法27条)から、保険医療機関の指定申請をする段階では、病院設備(人的・物的)を備えている必要があります。
そこまで準備して初めて、保険医療機関の指定申請をすることができるのです。
ところが、その指定申請が勧告不服従を理由に拒否されると、病院開設者は、無保険での診療を強いられるか、あるいは病院開設の中止を余儀なくされてしまいます。
流相: あっ、だから勧告が出された時点でその勧告を抗告訴訟として争う余地を認める必要があるんですね。
富公: そうです。
神渡: 実質的な理由は良く分かったんですが、実質的理由だけで「処分」性を認めても大丈夫なのでしょうか?
「処分」の要件に該当しないのに、実質的な救済の必要性だけを考慮して「処分」性を肯定することは、″法律による行政原理”からどうなのか?と思うのですが・・・
富公: 良い疑問です。
神渡さんの疑問はもっともですね。
どう考えましょう?
流相: 例外?
富公: この判例は、従来の「処分」の公式から外れていますから、例外ですね。
ですが、“例外”といっても無制限ではないですよね?
例外を認める理屈が成り立たないと法解釈ではなくなってしまいますから。
どういう理屈が成り立つでしょうか?
流相: う~ん・・・
神渡: (小さな声で)「処分」概念が必要な理由に遡る・・・?
富公: ん?
今、誰か良いこと言ったと思うんですが?
神渡さんですか?
神渡: 「処分」概念が必要な理由に遡る、ということですか?
富公: そうです。
そこから考えましょう。
「処分」概念は何故要求されたのですか?
神渡: たしか、“行為訴訟”の規律に服させるためだったと思います。
富公: そうです。
では、“行為訴訟”では何を争うのでしょうか?
神渡:
行政は、一般公益を実現するために法律に従って活動(『「抗告訴訟」と「民事訴訟」とを分ける「処分」概念』 【対話】司法試験論点分析◇行政法過去問講義-その4-◇平成25年度<第2問>)
神渡:します。行政の活動(行為)を争うのが“行為訴訟”であることからすると、行政の活動が、公益を実現するものであるかどうかを法律に照らして争うのが“行為訴訟”だと思います。
流相: なるほど!
つまり、“行為訴訟”では、行政の公益判断を争うということですね。
富公: 良いですね。
しかも、行政の公益判断は法律に照らして争うのです。
これを何と言いましたか?
流相: “行政の法律適合性”といいます。
富公: “行政”は、公権力を行使しますね。
ということは、“行政の法律適合性”とは、公権力の行使が法律に適合しているかを意味します。
つまり?
流相: つまり、
法律による公権力の制御です。
神渡: あっ!
ということは、「処分」概念の主眼は、公権力主体たる国家の制御にある、ということですね!
流相: えっ?何で?
神渡: 「処分」概念は、“権利訴訟”と“行為訴訟”を切り分ける概念です。
そして、“行為訴訟”は、公権力を行使する行政の公益判断を法律に照らして争う訴訟です(“行政の法律適合性”)。
ということは、公権力行使の適法性を問う必要がある行為は、「処分」とすべきです。
「処分」⇔“行為訴訟”(国家の行為が「処分」に該当するなら“行為訴訟”になりますし、“行為訴訟”になるなら「処分」にあたります)
“行為訴訟”=公権力主体たる行政の公益判断を争う訴訟
「処分」⇔公権力主体たる行政の公益判断を争う
こういう図式が成り立つと思います。
---次回へ続く---