神渡: C土地の所有権に関するXとYの財産関係には、甲国法が適用されるということになりますね。
錆新: そうなるわね。
じゃ、(2)を検討しましょうか。
流相: これは、通則法26条2項3号の問題ですね。
この規定によればB土地所有権に関するXとYの財産関係には、日本法が適用されます。
錆新: もう少し丁寧に検討してみましょう。
まず、『単位法律関係』は?
流相: え~と、「夫婦財産制」です。
錆新: もっと丁寧に。
流相: えっ?
神渡: 「不動産に関する夫婦財産制」ですね?
錆新: そうそう!
夫婦財産制のなかでも、特に「不動産」に関する夫婦財産制についての規定が通則法26条2項3号だから、そこは丁寧に押さえておかないとね。
この指定の仕方はつまり?
流相: ???
(どういう意味だろう?)
阪奈: 夫婦財産制について、XとYは甲国法によると合意しています。
その夫婦財産制の中でも、特に不動産についてはその準拠法を所在地法、つまりB不動産の所在地である日本の法とする合意をしています。
つまり、分割指定をしています。
錆新: そういうことになるわね。
でもなぜ、不動産に関する夫婦財産制について、通則法は分割指定を明文で認めたのかしら?
流相: 当事者自治の肯定ということですよね?
阪奈: まぁ、それはそうね。
夫婦財産制というのは、夫婦の財産を規律する制度であるところ、財産関係は原則として私的自治に任されているわけだからね。
錆新: それはそうね。
それを前提としてだけど、もし、通則法26条2項3号がないと、不動産については通則法上どういう扱いがされるのかしら?
神渡: 不動産については、通則法13条に規定があります。
動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。
神渡:と規定されています。
錆新: とすると?
神渡: 夫婦財産制に含まれる不動産について、「夫婦財産制」と法性決定されると通則法26条が適用され夫婦の同一本国法などが準拠法と特定されますが、その不動産が「不動産に関する物権」と法性決定されますと通則法13条が適用され、「目的物の所在地法」が準拠法と特定されます。
錆新: そういうことになるわね。
どう法性決定するかで相矛盾する結果が導かれることになる…
その場合にどういう解決をするかは争いがあるの。
一つの解決方法は、「個別準拠法は総括準拠法を破る」原則を適用して、通則法13による解決を優先するという方法があるわ。
流相: では、この問題もそういう問題なのですか?
錆新: いいえ、違うわ。
阪奈: むしろ、通則法26条2項3号は、そういった問題を生じさせないための規定なのですね?
錆新: そう!
神渡: 夫婦財産制の中の不動産について分割指定の合意をすることで、通則法26条と13条の矛盾を回避しているわけですね。
錆新: そういうこと。
本問では、この分割指定の合意があるわけだから、その指定に従って準拠法を特定すればいいわけ。
だから、「個別準拠法は総括準拠法を破る」原則の適否の問題は生じない、ということになるわね。
流相: なるほど~。
国際私法って難しいですねぇ…
錆新: 簡単というわけにはいかないわね。
阪奈: 結局、(2)では、日本法が適用されるという結論になります。
錆新: そうなるわね。
ということで、〔第1問〕はこれで終わりましょう!
次は、〔第2問〕ね。
---次回へ続く---