上場:判例分析で一番重要なのは、“判例の射程”の理解です。
実務家は日々、“判例の射程”を意識して仕事をしているのです。
裁判官だけではなく、検察官も弁護士もそうです。
皆さんも実務家になるわけですから、“判例の射程”を理解することがとても重要になります。
神渡:そもそも
“判例の射程”
とは何でしょうか?
上場:一般論として言いますと、
「裁判理由の中に書かれた一般的法命題」
が妥当するのはどの範囲か?
ということです。
具体的な分析については、各先生が担当される講座で勉強して欲しいですが、ここでは一例をあげてみましょう。
民法で、担保物権の物上代位の理解を巡っては
・特定性維持説
・優先権保全説
・第三債務者保護説
で争いがありますね。
判例は、
先取特権では特定性維持説と優先権保全説を合わせた理解をしています(昭和60年7月19日)が、
抵当権では第三債務者保護説に立っています(平成10年1月30日)。
これは、先取特権の場合の物上代位の理解が抵当権の物上代位の理解には及ばないこと、
つまり、先取特権の物上代位についての最高裁の判断の射程が抵当権の物上代位の構造理解には及ばないことを意味します。
単に、物上代位の構造は?
という頭ではこの2つの判例の違いを理解することは出来ません。
“判例の射程”に気をつける必要があります。
流相:(そうだったのかぁ~)
神渡:学説の考え方とは発想が違う気がします。
上場:そうです。違います。
判例は、個別具体的な事案の解決が目的ですから一般的な理論の定立にはあまり関心を持ちません。
が、学説はあらゆる事案を想定した一般的な理論の定立に関心を持つ傾向にありますからね。
この考え方の違いはとても重要です。
ここを押さえておかないと、判例を理解することはできなくなります。
判例を理解できないということは、実務家として仕事をすることができない、つまり、司法試験に合格することができないということを意味しますので要注意です。
神渡:判例の理解は難しそうですね。
“判例の射程”ですかぁ・・・。
上場:でも、司法試験では、そこまでぎりぎりと“判例の射程”を聞く問題は出しにくいでしょうね。
かなり難易度が高くなりますから。
試験的には、既存の判例の規範部分を使いこなせるかを問う問題が出てくることが多いですね。
流相:では、そんなに“判例の射程”を気にする必要はないですか?
阪奈:(何を言ってんだか・・・)
上場:いや、それは違いますよ、流相君!
判例を勉強するときは、常に“判例の射程”を意識しておかないといけないんです。
なぜなら、“判例の射程”を分析するということは、具体的事案をしっかりと分析するということだからです。
流相:??
上場:世の中には、全く同じ事件というものはありません。
そうすると、個別の事件毎に解決が異なってくるのか?というと、そうでもありません。
全く同じ事件はありませんが、公平の観点から、同じように解決すべき事件というものはあります。
そこでは、具体的事件の類型化がなされているわけです。
この類型化をする際、法的観点から、個別事案のどの要素をどれだけ重視するかという判断がなされます。
つまり、法的観点から、具体的事実の選別がなされるわけです。
どういう基準でその選別が成されたのかを追体験することが判例勉強のメインとなります。
流相:(へ、へぇ~)
判例をそんな風に勉強したことはないです。
上場:これから、この講座では、“判例の射程”を意識した判例分析をしていきますから、是非ついてきてください。
流相:わかりました!!
阪奈:お願いします。
神渡:お願いいたします。
---判例分析講座<各論>へ続く---