初戸:阪奈さん、今日は、平成18年第1問目の問題だったかしら?
阪奈:はい、そうです。
問題文は下のようになっています。
Aは,Bに対し,A所有の甲絵画(時価300万円。以下「甲」という。)を200万円で売却して引き渡し,BはAに代金全額を支払った。Bは,その1か月後,Cに対し,甲を300万円で売却して引き渡し,CはBに代金全額を支払った。現在,甲はCが所持している。AB間の売買は,Bの詐欺によるものであったので,Aは,Bとの売買契約を取り消し,Cに対し甲の返還を求めた。
1(1) Aの取消しがBC間の売買契約よりも前になされていた場合,AC間の法律関係はどうなるか。考えられる法律構成を2つ示し,両者を比較しつつ,論ぜよ。
(2) (1)の場合において,Cが甲をAに返還しなければならないとき,BC間の法律関係はどうなるか。
2 Aの取消しがBC間の売買契約よりも後になされた場合,AC間の法律関係はどうなるか。考えられる法律構成を2つ示し,両者を比較しつつ,論ぜよ。
なお,これらの構成は,1(1)で示した2つの構成と同じである必要はない。
初戸:そうね。
じゃ、順番良く解いていこうかしら。
神渡:まず、関係図はこうなります。
流相:1(1)Aの取消後、BがCに甲絵画を売却した場合について、AがCに甲の返還を請求することができるか?という問題になりますね。
取消後の第三者の論点です。
初戸:論点名はそうね。
でも、その前に、AがCに甲の返還を求めたのはどういう法的根拠からかしら?
神渡:AC間には契約関係がありませんから物権的請求権だと思います。
初戸:そうね、物権的請求権であることに問題はないわね。
物権的請求権でもCが甲を所持しているから所有権に基づく返還請求権の問題になるわね。
神渡:そうですね。
初戸:じゃ、流相くん、続けて。
流相:はい。
取消後の第三者との関係では
(1)対抗問題アプローチ
(2)公信力アプローチ
という2つの法律構成があります。
初戸:その両者を比較しつつ、AC間の法律関係を論じる必要があるわね。
流相:そうですね。
ところで、2つの法律構成については、結論だけを書いて、あてはめていくだけでこの問題は良いのかなぁ?
阪奈:いや、そういうわけにはいかないでしょう。
何故、そういう法律構成があるのか、から書くべきじゃないかしら?
流相:なんで?
阪奈:“なんで?”って、そりゃ、どの構成を取るかで結論への筋道が変わってくるからよ!
流相:そりゃそうだ。
対抗問題アプローチは、取消の遡及効を法的擬制と捉えるんだよね。
阪奈:そうだけど、問題はそこに至るまでの筋道よね。
神渡:条文によると、詐欺取消(96条1項)により、AB間の売買契約は遡及的に無効になるわね(121条本文)。
そうすると、Bは初めから無権利者で、Aが初めから権利者となります。
無権利者から権利を取得することはできないのが原則なので、無権利者Bからの譲受人Cは無権利者となるのが原則です。
阪奈:そこまでは、
(1)対抗問題アプローチ
(2)公信力アプローチ
で争いがない部分よね。
神渡:そうよね。
法律を形式的に適用したらそうなるものね。
問題は、そこから先ね。
流相:そこから先が
(1)対抗問題アプローチ
(2)公信力アプローチ
に分かれるということ?
---次回へ続く---