流相:詐欺取消(96条1項)により、AB間の売買契約は遡及的に無効になり(121条本文)、
そうすると、Bは初めから無権利者で、Aが初めから権利者となる。
無権利者から権利を取得することはできないのが原則なので、無権利者Bからの譲受人Cは無権利者となるのが原則と!
そこまでは、
(1)対抗問題アプローチ
(2)公信力アプローチ
で争いがないということだね。
ふん、ふん。
たしかにね。
阪奈:流相・・・
まさか知らなかった?
流相:い、いや知っていたよ。
当然じゃないか!
阪奈:あっやしい~。
まあ、いいけど。
神渡:無権利者Bから譲り受けるCも無権利者となるのが原則、
という理解からするとCを保護するための理屈は、公信力によるという筋が素直よね?
阪奈:そうね。
流相:とすると94条2項の類推適用の問題かな?
阪奈:え?
なんでよ?
本問の目的物は絵画という動産なのよ?
動産について公信力についての規定があるじゃない!
流相:あ~~、
即時取得だね(民法192条)。
阪奈:問題文はちゃんと読みなさいよ(怒)!
流相:すいませ~ん。
神渡:あと1つの構成は判例の対抗問題アプローチね。
このアプローチでは、取消により復帰的に物権変動が生じると擬制してBを起点とする動産の二重譲渡と捉えるのよね。
条文は178条ね。
でも、この対抗問題アプローチってかなり変な考え方よね?
わざわざ復帰的な物権変動を擬制するわけだから。
流相:そうだよな。
なんでだろ?
阪奈:そこが、この2つの構成を「比較しつつ、論ぜよ」と言っているこの問題のテーマなんじゃないかしら?
初戸:阪奈さん良いわね。
素直な構成(公信力アプローチ)からいくとどうなるのかしら?
神渡:即時取得(192条)の要件は
(1)「取引行為」
(2)「平穏・・・公然」と
(3)「動産の占有を始め」
(4)「善意・・・かつ、過失がない」
です。
本問では、CはBから甲絵画を買っていますから
(1)「取引行為」を充たします。
Cは自己物として甲を買っていますから「所有の意思」(186条1項)があります。よって、
(2)「平穏・・・公然」も186条で推定されます。
そして、Cは現在甲を所持していますから
(3)「動産の占有を始め」も充たします。
CがBを権利者として信じ、そのことにつき過失がないならば
(4)「善意・・・かつ、過失がない」
も充たします。
「善意」については、186条1項で推定されます。
「過失がない」(無過失)については、188条で推定されますので、Cは192条により甲の所有権を取得します。
結局、取引行為により動産を取得したCは192条により甲の所有権を取得することができます。
流相:(4)「善意・・・かつ、過失がない」
についてですが、「善意」って無権利者であることを知らなかったことを言うんじゃないですか?
逆に言うと、無権利者であることを知っていた場合が悪意で、それ以外は善意ということにならないんですかね?
神渡さんはさっき
権利者として信じ
と言っていたんですが・・・。
これによると、権利者であると信じていなかった場合、つまり、無権利者であることを知っていた場合のみならず、権利者かもしれないと半信半疑の場合も悪意となると思うのですが?
阪奈:何言ってるの、流相?
神渡さんの言う通りで良いのよ!
流相:え?
阪奈:“え?”
じゃないわよ!
いくら旧司法試験の過去問を解くからと言って要件事実を忘れちゃダメよ(怒)!
主張立証責任も視野に入れて問題は解かなくちゃ!
流相:あ~~
主張立証責任ね。
ということは、真の権利者は、無権利者からの譲受人が、その譲渡人(前主)が無権利者であることを知っていたことの主張立証をしなくても、
無権利者かもしれないと半信半疑だったことを主張立証すれば足りるということだね?
阪奈:そうよ。
無権利者からの譲受人が無権利者であることを知っていたとの主張立証が不要な分、真の権利者には少し有利ね。
流相:たしかに。
でも、なんで
無権利者からの譲受人が、その前主が無権利者であることを知っていたとの主張立証が不要
なんだろう?
阪奈:はぁ~!
そこは実体法たる民法の問題でしょう!
即時取得制度が無権利者から権利は取得しないという大原則の例外である以上、即時取得に必要な主観的要件は厳格にすべきなのよ!
だから、一般の「善意」概念よりも即時取得の「善意」概念を狭めているの!
ちなみに、一般の「善意」とは、無権利者であることを知っていた場合以外を意味するんだけど、大丈夫よね?
流相:あ、あ~大丈夫。
無権利者かもしれないと半信半疑である状態は一般の「善意」にあたるということだよね。
阪奈:そういうこと!
流相:とても勉強になります(頑張らないと!)。
---次回へ続く---