流相:公信力アプローチでは、譲受人は前主を権利者と信じたことがその譲受人が保護されるために必要になるんだよね?
逆に言うと、前主が無権利者であるかもしれないと少しでも思っていれば譲受人は保護されないことになるわけだ。
阪奈:そうよ。
初戸:次は、対抗問題アプローチにいきましょうか?
神渡:対抗問題アプローチでは、AとCは、Bを起点とした二重譲渡関係に立ちます。
その際、Cが悪意であっても先に動産の引渡を受けた以上は、第二譲受人Cは第一譲受人Aに勝ちます。
結局、公信力アプローチでは譲受人Cは善意でないと権利を取得することができませんが、対抗問題アプローチですとCは悪意、つまりBが無権利者であると知っていても権利を取得することができます。
初戸:結論がだいぶ違ってきますね。
ですが、対抗問題アプローチはそれだけで終りですか?
流相:単なる悪意者は保護されるというのが対抗問題アプローチの考えですね。
あっ、
“背信的悪意者排除論”がありました!
初戸:そうですよね。
その考え方はどんなものですか?
流相:え~と、
(1)悪意であり、
(2)登記の欠缺を主張することが信義に反する者
は保護されないという考えです。
初戸:そうです。
正確な理解ですね。
“背信的悪意者”
ですから、背信性のある悪意者ということですね。
背信性とはたとえば?
流相:第一譲受人へ不当に高く売る目的で譲渡人から安く買うなど、です。
初戸:そうですね。
公信力アプローチと
対抗問題アプローチ
とは結局どこがどう違うのでしょうか?
流相:公信力アプローチだと、譲渡人が無権利者かもしれないと疑いを持っている場合は悪意となり、譲受人は権利を取得することができません。
対して対抗問題アプローチだと、譲渡人が無権利者であると知っている悪意の場合でも保護されます。背信性がある悪意者であれば例外的に保護されませんが、背信的悪意者でない限りは保護されるわけです。
初戸:どちらが譲受人保護を重視しているのでしょうか?
流相:それは当然、対抗問題アプローチの方が譲受人保護を重視する見解ということになりますね。
初戸:判例はどの見解ですか?
流相:対抗問題アプローチの考えです。
初戸:先ほども話が出ましたが、対抗問題アプローチは不自然な考え方といえますよね。
復帰的物権変動という擬制をするわけですから。
どうしてそういう擬制をしてまで譲受人を保護するのでしょうか?
流相:取引の安全を重視すべきだからではないでしょうか?
初戸:結論はそうですが、その結論を利益考量(利益衡量)上も支持できますか?
流相:利益衡量上ですか・・・
阪奈:取引の安全という観点からすると、前主が無権利者であってもその前主を権利者と信じた者がいればその者のその信頼を保護する必要があります。
しかし、他方、真の権利者の利益も考慮しなければなりません。本問では、取消により初めから権利者であったAの利益も考慮しなくてはなりません。そうでなくては権利秩序が著しく害されてしまいますから。
ここで、Aは取消により絵画の所有権を初めから有していたことになっていました。そうすると、AとしてはさっさとBからその絵画を取り戻しておくべきだったといえます。そうでないと、即時取得制度がある動産取引においてAは権利を失う可能性があるからです。
自分の権利を守るために絵画を取り戻すことを要求することも可能です。なぜなら、Aが取消をした時点ではBはいまだその絵画をCに譲渡しておらずBが所持していたからです。
そうしますと、Aはその絵画を取り戻すことができたのに取り戻さなかったという怠慢があったといえます。そのAの怠慢を考慮すると、Aの利益を保護するよりもCの信頼を保護する方が望ましいといえます。
ということで、取消後の第三者との関係で対抗問題アプローチを採ることは利益衡量上も許されることになります。
初戸:阪奈さんの言うとおりですね。
神渡:初戸先生、公信力アプローチと対抗問題アプローチの対立は、これまで不動産取引で議論されてきたように思います。
不動産は動産と違って即時取得制度がありません。ですので、既存の制度である177条の対抗要件でことを決するという判例の考え方も理解できます。
利益衡量上も理解することができます。
しかし、本問では即時取得制度がある動産についての問題です。
動産の場合、取消の遡及的無効(121条本文)を貫いて、譲受人を保護する制度として既存の即時取得制度を利用することが良いのではないですか?
逆に言いますと、公信力が否定されている不動産の場合に94条2項の類推適用による公信力アプローチを主張することの方が不自然な気がしますが・・・
阪奈:あ~、なるほど!
流相:う~ん。たしかに。
---次回へ続く---