照田:さて、“二段階分析”の結果、
③乙の身体を押さえつけて、ポケット内を探った行為
⑤覚醒剤入りビニール袋を差し押さえた行為
を本問では論ずる必要がある、ということになった。
まずは③から見ていこう!
流相、分析してみろ!
流相:はい!
乙は現行犯逮捕されていますが、その逮捕前にポケット内を警察官Aに調べられています(③の行為)。
この③の行為が逮捕に伴う捜索(220条1項2号)として適法かが問題となります。
照田:何故だ?
流相:な、“何故”
ですか?
えーと、乙の所持品を捜索する令状(許可状)がないからです・・・。
照田:たしかにそういった令状(許可状)はないな!
だが、問題をよく読んでみろ!
Aが踏み込んだ室内で乙は何をした?
流相:それは・・・
あっ!
乙はテーブル上にあった物をつかんでポケットに入れて外に逃げています。
照田:そうだよな。
Aが所持していた捜索差押許可状でなんとかならんか?
流相:なんとかしたいですが、その捜索差押許可状は甲に対する覚せい剤譲渡被疑事件についての令状です。
あくまでも甲宅(Xマンション101号室)と甲の所有物・所持品等に向けた令状ですからねぇ。
乙の所持品に対してこの許可状を流用することはできないと思うのですが・・・。
照田:よく気がついた!
まずはそこに気がつくことが大切だ。
甲に対する許可状を乙に流用することは原則できない。
しかし、それは何でだ?
流相:“何で”?
ですか?
令状主義に反するからですよね。
照田:そもそも“令状主義”とは何だ?
流相:“令状主義”とは、
(a)令状申請による捜査機関の自己抑制
(b)申請内容に対する裁判官の司法的抑制
を保障して、捜査権の濫用を防止する点にあります。
照田:うん、
そうすると、甲に対する令状を乙に流用するとどうなる?
流相:乙に対する令状申請をしていないですから、捜査機関の自己抑制が保障されていませんし、
乙に対する申請内容がないですから、裁判官の司法的抑制も保障されていません。
これでは、乙に対する捜査権の濫用を招くことになります。
照田:そうだな。
だから甲に対する令状である本問の捜索差押許可状を乙に流用することは原則として許されない、となるわけだ。
流相:そうですね。
照田:だが、
本問では捜索現場に居合わせた乙が、テーブル上にあった物をつかんでポケットに入れてベランダから外へ逃げているよな?
この場合にも甲への令状を乙に流用することは常にできなのだろうか?
乙が今まさに捜索現場にあった物を持って逃げているのだから令状を請求している時間的余裕は全くないよな?
流相:そうですね。
ですから、無令状での捜索を可能とする逮捕に伴う捜索差押(220条)の可否を検討するのではないですか?
照田:その問題もあるんだが、無令状での捜索差押は令状主義の例外だろ?
流相:はい。
照田:実務家としては、例外に基づく捜査は怖いものなんだよ。
できるだけ原則に則った捜査をしたいんだ。
だから令状主義に基づく捜査ができないか?
を第1に考えるわけだ。
令状に基づく捜査ができないとハッキリしたときに、令状主義の例外について検討するという思考をするんだよ。
流相:そうなんですね。
阪奈:なるほどです。
神渡:例外の捜査はあまり好ましくないんですね?
適法であれば原則も例外も等価だと思っていたんですけど・・・
---次回へ続く---