照田:次は、
⑤覚せい剤入りビニール袋を差し押さえた行為の適法性についての検討だ。
この行為は適法かな?
何から検討する?
阪奈:甲に対する覚せい剤譲渡被疑事件について得た差押許可状による差押えとして適法かどうかを検討します。
照田:どうなる?
阪奈:え~と、
覚せい剤は、覚せい剤譲渡被疑事件に関連する物ですから、この差押えは、本問の差押許可状による差押えとして適法だと思います。
照田:ふ~~ん。
本当?
阪奈:え?(間違ったかしら?)
神渡:照田先生、
本問の捜索差押許可状には、差し押さえるべき物が、
「取引メモ、電話番号帳、覚せい剤の小分け道具」
神渡:としか記載されていません。
覚せい剤という記載がないんです。
何か変じゃないですか?
照田:誤植ではないぞ!
ここにどういう問題がある?
神渡:えっと・・・
被疑事件に関連する物であっても、差押許可状に記載がない物を差し押さえることができるか?
という問題でしょうか?
照田:ビンゴ!
その通り!
今、神渡が言った問題があるんだ。
さて、この問題はどうなるだろう?
そもそも、差押許可状に差し押さえるべき物を記載しないといけない(219条1項)のは何故かね?
神渡:(令状主義の趣旨から考えるのよね。)
自己抑制と司法的抑制を保障して被疑者の権利を保護するためです。
照田:そうだよな。
差押許可状に記載された物についてのみ自己抑制や司法的抑制が保障されているんだよな?
そうすると?
神渡:そうすると、
差押許可状に記されていない物について差し押さえることは令状主義の趣旨に反します。
照田:うん、そういうことになる。
とすると、この差押許可状で乙が所持していた覚せい剤を差し押さえることはできるのだろうか?
神渡:できない、ということになります。
照田:そうなるな!
阪奈:しかし、照田先生、
本問の捜索差押許可状で捜索はできたのに、差押えはできないというのは何か変な感じがします。
照田:そう思う気持ちも分からないではない。
しかし、捜索と差押えは要求される厳密さが違うんだよ!
阪奈:どういうことですか?
照田:“捜索”というのは、証拠物があるかを調べるための捜査だ。
これに対して、“差押え”というのは、捜索で発見された物が被疑事件との関係で証拠物である場合にその物の占有を強制的に取得する捜査だ。
“捜索”では証拠物がある蓋然性があれば捜索が可能で、その捜索範囲に結果として被疑事件との関係で証拠となる物がなくてもその捜索が直ちに違法となることはない。
その意味で行為時判断といえる。
これに対して、“差押え”では、捜索により発見された物が被疑事件と関連する証拠物でなければその物の占有を強制的に取得することはできないんだ。
捜索で発見された物が結果として被疑事件と関連しない物であれば、その物を差し押さえることは違法となるわけだ。
その意味で差押対象物該当性判断は事後判断といえる。
この違いが分かるかな?
阪奈:あ~~。
分かります。
でも、捜索の結果、乙が所持していた物は覚せい剤であることが判明していますよね?
覚せい剤は、覚せい剤譲渡被疑事件と関連する物だと思うのですが・・・
照田:そこは、阪奈の言う通りだよ。
阪奈:では、何故、その物(覚せい剤入りビニール袋)を差押許可状で差し押さえることができないのですか?
照田:それについては、さっき神渡が言っていたぞ!
阪奈:あっ、そうでした。
差押許可状に、差押物件として“覚せい剤”との記載がないからでしたね?
照田:そういうこと。
阪奈:そこは厳格なんですね。
照田:そうだな。
実質的には覚せい剤譲渡被疑事件において覚せい剤は重要な証拠物に該当する。
しかし、差押許可状に“覚せい剤”と書いていない以上は、捜索で発見された覚せい剤に自己抑制はおろか、司法的抑制も及んでいないわけだから、令状主義の趣旨からすると、当該差押許可状でその覚せい剤を差し押さえることはできない、と言わざるを得ない。
それが、令状主義の帰結だからな。
阪奈:そうですね。
令状主義を甘く見ていました。
照田:落ち込む必要はない。
令状主義は基本的な部分であるが故にとても難しい分野だからな。
流相:そうすると、この⑤差押え行為は違法となる、という結論でいいですかね?
照田:そうかぁ?
---次回へ続く---