払猿: Bの主張にできる限り沿った訴訟活動を行うという観点からは、Bを正式採用しなかったA市の判断をどう憲法的に統制していくのかが最重要課題となりますね。
では、どう考えましょうか?
阪奈: 小山先生の著書『「憲法上の権利」の作法 新版』(尚学社、2011年)によれば、「制度の論理」が支配する領域では、次の4つの審査があるとされています(同書173頁、174頁)。
(1)立法裁量強調型
(2)立法裁量縮減型
(3)立法裁量限定型
(4)裁量過程統制型
阪奈: この問題では、立法裁量が問題となっているわけではないですから、厳密には「立法」ではありません。
「行政裁量」が問題となっているわけですから、以下では、「行政裁量」の語を使用した方が良いと思います。
払猿: その通りですね。
阪奈: そうしますと、Bの主張に沿った訴訟活動としてBの訴訟代理人が採用すべき審査方法は上記(1)~(4)までのどの審査方法なのか、という観点から検討すべきですね。
神渡: (1)行政裁量強調型は取り得ない審査方法ですよね?
この審査方法だと行政の判断をほぼ手放しで許容することになるはずですから。
払猿: そうですね。
(1)行政裁量強調型では、神渡さんがおっしゃったようになりますから、Bの主張にまったく沿わないことになります。
神渡: 残りの3つの審査方法のうち、どれが一番Bの主張に沿った審査方法となるかですね。
流相: そもそも、上記4つの審査方法ってどういう内容ですか?
阪奈: (小山先生の本を読んだことないのかしら、流相は?)
え~と…
小山先生がおっしゃっているのを簡単にまとめると、
(1)行政裁量強調型は、広範な行政裁量を前面に出す審査方法で、極めて緩やかな基準で審査される審査方法。
(2)行政裁量縮減型は、立法目的や制度目的との首尾一貫性を検証するという形で合理性を比較的詳細・具体的に検討する審査方法。
(3)行政裁量限定型は、法の下の平等が行政裁量に限界を付与する審査方法。
(4)裁量過程統制型は、上の3つの審査方法とは違って、結論ではなく裁量権行使の過程に着目した審査方法。
阪奈:ということになるわね。
流相: へぇ~、なるほどぉ。
なんか、(4)は行政法で勉強したことあるなぁ。
”他事考慮”とか”考慮遺脱”とかの話だよね?
払猿: よく勉強されていますね。
行政法ではよく登場する審査方法です。
憲法ではあまりなじみがないかもしれませんね。
流相: はい。
憲法では、”明白性の基準”や”合理性の基準”や”厳格な合理性の基準”(若しくは”LRAの基準”)などが有名です。
払猿: たしかにそうですね。
憲法学では、小山先生のおっしゃる「権利の論理」つまり、「権利論」で憲法上の主張を組み立てることに主眼がありますからね。
流相: ところで、今は「制度の論理」で話は進んでいるわけですが、そもそもこの問題を「権利の論理」として組み立てることはできないのでしょうか?
「権利の論理」の方がなじみが深いので書きやすいのですが…
阪奈: え~と、書きやすい書きにくいで審査方法の採否を決めるのかしら?流相は。
流相: い、いやそういうわけではないけど…
阪奈: 初めに検討したように、Bの表現自体は制約されていないから、Bの権利(外部に意見を表明する権利)の制約はないといえる。
だから、「権利の論理」の土俵に乗ってこない…
この問題の本質は、Bの過去の意見表明(A市が推し進める政策への反対意見の表明)をBの正式採用拒否の理由とした点にあるわけで、Bの正当な権利行使を後からBの不利益に考慮したことにBは不満を抱いている。
そのBの不満は、Bの正式採用を拒否したA市の判断にあるから、憲法論としては、A市の判断に焦点を当てるべきでしょうね。
それが「制度の論理」の問題となる理由だと思います。
流相: でも、初めは、「保護範囲論」で、表現への萎縮効果の検討をしているのだから、初めは「権利の論理」で議論をスタートしたんだよね?
それが途中から「制度の論理」の問題となったと…
---次回へ続く---