玄人: さて、いよいよ「共同正犯論」に入ろう。
理論的にも重要だが、共犯で一番多く処罰される類型は狭義の共犯(教唆・幇助)ではなく「共同正犯」だから、現実にも「共同正犯」は重要と言える。
ということで、流相、「共同正犯」とは?
流相: はい!
複数人が協力して同一の犯罪を実現することです。
玄人: こういう場合はまず刑法の文言を言って欲しいんだが・・・
流相: あっ、そうでした。
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする(刑法60条)
流相:と規定されています。
玄人: では、具体例は?
神渡:
XとYが甲を殺そうと話し合って、それぞれ甲に向けて銃を発射したところ、Xの弾だけが甲に命中して甲が死亡した
玄人: その場合どうなる?
流相: はいはい!
その場合、XとYともに正犯となります。
玄人: 結論はそうだな。
でも何故だ?
Yの弾は甲に当たっていないが?
流相: それが共同正犯だからです。
玄人: ・・・
阪奈: 流相、あんたねぇ・・・
玄人: さっき、神渡さんが挙げた典型例についてXとYが単独犯だった場合、XとYの罪責がどうなるかを検討することから始めるか。
Xの罪責はどうなる流相?
流相: はい、問題なく殺人罪(刑法199条)です。
玄人: そうだな。
では、Yの罪責は?
流相: Yは甲を殺そうという意図の下、甲を狙って銃を発射していますが、Yの弾は甲に当たっていません。
Yの実行行為と甲死亡結果との間に因果関係がないですので、殺人未遂罪(刑法203条、199条)になります。
玄人: そうだ。
XとYを単独犯に分解すると、
・Xは殺人罪
・Yは殺人未遂罪
玄人:となる。
ところが、刑法60条でXとYが共同正犯とされると、Yは自己の行為と因果関係のない甲死亡結果について殺人罪の罪責を負うことになるわけだな?
流相: はい、そうです。
玄人: そのことを何という?
流相: はい。
「一部実行全部責任の原則」と言います。
阪奈: 「一部行為全部責任原則」が正確だと思います。
玄人: たしかに、阪奈さんが言うとおりだが、今はどちらでも良いことにしておこう。
さて、何故、「一部行為全部責任原則」が認められているのか?
「一部行為全部責任原則」が認められている根拠の理解が共同正犯の理解にとっては極めて重要となる。
「一部行為全部責任原則」の理解が、暗黒の章である「共同正犯論」に一筋の光明を与え、錯綜した「共同正犯論」からの脱出を可能とする!
狭義の共犯で検討した「共犯の処罰根拠論」と同じだ。
---次回へ続く---