流相: 同じ事情を何回も使えるんですか?
阪奈: 問題ないわよ。
使えると思うわ。
玄人: ”数時間にわたって”という事情から、
・犯罪事実の認識があったことを導き、
・犯罪事実の認容があったことを導くこと
は可能だ。
問題は、その事情をどう評価するかにあるだけなんだ。
そして、その評価は、”法的枠組み”に照らして判断する、というのが法律の特質だ。
流相: そうなんですね!
”法的枠組み”からある事実を見ていくというのはそういうことなんですね。
玄人: 裁判というのは、”法的枠組み”から事実を評価していくのだから、政治的判断よりもやりやすいといえるだろう。
政治的判断をするにも、政治的な判断枠組みに照らした判断が必要となるという意味で、”法的枠組み”に照らした法的判断と同じ構造が見られるんだが、政治的判断には、法的判断と違ってこれといった基準がない。
流相: ですが、法的判断においても、判例がない問題もありますし、学説が対立して定説がない問題もあります。
状況は政治的判断と同じに思うのですが・・・
玄人: たしかに流相がいう面はある。
しかし、法的判断をする際は、法律という絶対的基準がある。
解釈というのも、既存の法律を解釈するという点で政治的判断とは違うといえる。
流相: たしかにそうですね。
阪奈: 政治的判断は既存の法律には必ずしも従ってなされるわけではないから。
政治的判断に照らして法律を改正するということは日常的に国会でなされているものね。
そういう意味では、既存の法律を前提とした”法的枠組み”に照らしてくだされる法的判断というのは政治的判断よりもしっかりとしたものといえそうですね。
玄人: ”法的枠組み”といっても立法者の意思を重視するのかどうかについて争いがあるから、阪奈さんが言うように、法的判断が政治的判断よりもしっかりしたものであるというのは相対的なものにしかすぎないが、既存の法律を前提とする点で、法的判断は政治的判断よりも安定しているとはいえるだろう。
まぁ、とにかく、今回言いたかったのは、事実を見ているだけでは法的解決はできないということだ。
”法的枠組み”から事実を見ていくこと!
これが法律家に求められる資質ということになる。
しかし、長く法律を勉強しているはずの流相が法的に問題となっている事実を適切に拾えない、という悩みを持っているというのはロースクールにも問題があるかもしれんな。
ロースクールは、”理論と実務を架橋する”というコンセプトでデザインされたのだが、そのコンセプトが実現されているかの検討が必要かもしれん・・・。
僕たち学者と実務家との協力体制の見直しが必要かもな・・・
神渡: ただやみくもに複雑な事案を解く練習ばかりしていてもダメだということですね。
玄人: そういうこと!
事案を法的に解決するために不可欠な”法的枠組み”の勉強をして初めて法的解決がなされるわけだから。
”法的枠組み”の勉強が”理論”で、
事実認定の勉強が”実務”
ということになるわけだ。
法的に問題となる事実を適切に拾えないという学生は、”法的枠組み”の理解が怪しいことに原因があるので、”法的枠組み”の理解に努める必要があるな。
流相、分かった?
流相: イエッサー!
阪奈: (脳天気ねぇ・・・)
流相: 玄人先生、今日はとてもためになりました。
ありがとうございます。
神渡: 先生、ありがとうございました。
進むべき方向がはっきり見えました。
阪奈: 先生、ありがとうございます。
研究ガンバって下さい。
玄人: ありがとう。
君たちも勉強頑張ってくれ!
阪奈: 失礼しま~す。
---終---