初戸: 債権とは何か?に関して大きく2つの考え方があります。
阪奈:
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権利意思説と権利利益説
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ですね。
初戸: 良く知ってますね。
どういう内容ですか?
阪奈: 権利意思説とは、権利を、自然現象や他人の行為を支配する個人の意思の力であるとし、
権利利益説は、権利を、法によって保護される利益であるとする考え方です(潮見佳男『プラクティス民法 債権総論[第3版](信山社、2007年)2頁)。
初戸: 権利意思説では、債権の本質は「請求力」となります。
対して、
権利利益説では、債権の本質は「給付保持力」となります。
流相: では、債権とは、人に対する請求権だ、と僕が言ったのは、「権利意思説」を前提とする債権の理解ということですか?
初戸: そうです。
流相: へぇ~。
債権とは何か?で争いがあるとはまったく考えたこともなかったです…。
初戸: 受験生にとってはそうでしょうね。
ですが、民法学にも大きなところで争いがあるのです。
神渡: 民法「学」なのですからそうなりますよね。
私も知らなかったですけど。
初戸: 両説から特に違いが生じるのは、債務者が債務不履行に陥った場合に債権者に認められる権利である、履行請求権や損害賠償請求権や解除権の位置付けですね。
流相: そうなんですね。
そんな争いもあるんだ…。
初戸: 権利意思説からは、債権は、第1次的には「履行請求権」として現れます。「履行請求権」が第1次的効力です。
で、第2次的に、「損害賠償請求権」や「解除権」が債権者に認められる、ということになります。
神渡: 権利意思説は、債権の本質を「請求力」と捉えるわけですから、「履行請求権」が第1次的権利となるのですね。
初戸: そうなのです。
では、権利利益説からはどうなりそうですか?
神渡: 「給付保持力」からの説明ですよね…。
そもそも、「給付保持力」とは何でしょうか?
初戸: 簡単に言えば、
「債権者が債務者からの給付を保持することのできる権能」(前出・潮見3頁)のことです。
神渡: 債務不履行の場合、債権者は債務者から給付を得ていません。
ですが、権利利益説では、債権の本質を「請求力」とは捉えないわけですから、「履行請求権」が第1次的権利とはならないのではないでしょうか?
初戸: そうなんですね。
権利意思説がいうような「履行請求権」の第1次的効力というのは「給付保持力」だけからはストレートには認められません。
権利利益説では、「履行請求権」「損害賠償請求権」「解除権」はいずれも並列した債権者救済手段となるのです。
流相: 両説の考え方の違いは分かりましたが、その違いって重要なのですか?
なにか論点的に重要な違いを生み出すのか?ということですが…。
初戸: 良い視点ですね。
結論に何の違いももたらさない争いというのはほぼ無意味ですからね。
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結論は、もちろん、論点的に重要な違いを生み出す対立です。
具体的な対立場面の1つが「特定物ドグマ」への賛否なのです。
他にも、損害賠償請求権行使の要件として債務者の帰責事由の要否などの解決にも影響します。
流相: 債権の本質を「請求力」と捉える権利意思説では、「履行請求権」が第1次的権利となります。
そして、たとえば、売買契約の場合、特定物に原始的瑕疵があっても、瑕疵のないその物はこの世に存在しないわけですから物理的に履行を請求しようがない。売主に債務不履行はない、と。
そうすると、買主は代金に見合った目的物を取得していないわけで、満額をもらった売主と比べると不公平だ。
だから、民法は無過失責任である担保責任を認めた、という説明になるんですよね。
初戸: そうなりますね。
よく理解されてます。
流相: では、権利利益説からはどうなりますか?
初戸: 権利利益説からは、「履行請求権」「損害賠償請求権」「解除権」は、先ほども言いましたように、いずれも並列した債権者救済手段となりますね。
流相: はい。
並列関係なので、どの権利を行使したらよいのやら…。
神渡: 少なくとも、権利利益説からは「特定物ドグマ」は導かれない…。
原始的に瑕疵のある特定物であっても、債権者は瑕疵のない目的物の履行を請求することができる、ということですよね?
初戸: そうですね。
神渡: それは、どうしてでしょうか?
流相: そうだよねぇ。
瑕疵のないその物はないわけだからなぁ。
阪奈: 今は権利利益説の立場での話をしているのよ?
流相の疑問は、「請求力」を債権の本質と理解する権利意思説の立場での思考になっているわよ!
初戸: 阪奈さんがおっしゃるとおりですね。
流相: 難しいなぁ…。
どうしても権利意思説の考え方が抜け切らない…。
初戸: 権利利益説は、権利意思説とは発想が違います。
「請求権」から考えるのではなく、「給付保持力」から債権を考えるのです。
「給付保持力」を考えるうえで一番重要なのは何でしょうか?
そこが分かればこの問題は解決します。
---次回へ続く---