上場: では、さらにどういう構成が考えられるのか、次の国家行為を分析してみましょう。
無理そうでもなんとかできないか?という粘りの思考が要求されますね。
流相: 逮捕の次は、検察官の起訴行為の分析になると思います。
上場: そうですね。
どうなりますか?
流相: 公訴権濫用論の問題かと思いますが・・・
しかし、公訴権濫用論については、既に判例があります。
上場: その判例は、なんと言っていますか?
流相:
公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる(最決昭和55年12月17)
流相:と言っています。
上場: この事案ではどうなるでしょうか?
流相: この事案は、住居権者の意思に反する立ち入りであることは明らかで、検察官が被告人を住居侵入罪で起訴することは当然にできますから、検察官の公訴提起自体が職務犯罪を構成するとはいえません。
ですので、この事案に公訴権濫用論を用いることはできないと思いますが・・・
上場: 昭和55年最決の規範を使うなら当然に流相君の言うとおりです。
流相: ですよね。
ということは、別の国家行為の検討に進むべきと・・・
上場: その前に、もう少し粘ってみましょう!
流相: あてはめで粘るということですか?
上場: いえ、違います。
この規範を使うなら検察官の起訴行為に公訴権濫用論を用いることはできません。これは動かせない。
ということは、この事案に、昭和55年最決の規範が及ばない、という議論ができないか?という思考をする必要があります。
神渡: 「判例の射程」の議論をするのですね?
上場: そういうことです。
「判例の射程」の議論をする場合、判例が個々の事案に対する個別判断であるということを大前提として押さえておく必要があります。
神渡: 同じ事案であれば同じ規範が適用されますが、異なる事案であれば別の規範になります。
ですから、ある判例の事案がどういう事案であったのかはとても重要だ、ということだったと思いますが、いかがでしょうか?
上場: 神渡さんがおっしゃるとおりです。
ということは?
神渡: ということは、この事案と昭和55年最決とは事案が異なる、と言えれば昭和55年最決の規範はこの事案に適用されません。
ですので、この事案に公訴権濫用論が適用される余地が出てくると思います。
上場: そうですね。
この事案に昭和55年最決の射程を及ぼさない、という操作をするということです。
少し、具体的に考えてみましょうか。
まず、昭和55年最決はどういった事案でしたか?
---次回へ続く---