流相: えっ?
典型契約の冒頭規定にあてはまればその典型契約に規定されている権利義務規定がそのまま適用されるということですか?
上場: 基本的にはそういうことです。
ただ、その権利義務規定が任意規定であり、その任意規定を排除する合意が当事者にあれば、その合意に基づく権利義務を確定するという思考順序になります。
神渡: ということは、冒頭規定にあてはまれば、その典型契約に予定されている権利義務規定が1セットとして適用されるのが基本ということになるのですね?
上場: そう、まさにそういうことなのです。
阪奈: だから、どの冒頭規定にあてはまるかは出発点としてとても重要なんですね。
上場: そうです。
ですから、流相君が風邪を治してもらいに病院に行ったが、治らずに悪化して入院し20万円の損害を被ったという架空の事案でも、どの冒頭規定にあてはまるのか?を初めに決定する必要があるのです。
では、この架空の事案はどの冒頭規定にあてはまりますか?
流相: 思い出したのですが、医療行為は通常「準委任契約」(656条)です。
上場: 医療行為が「準委任契約」に該当することが多いのはその通りですね。
ですが、医療行為であれば常に「準委任契約」だと覚えることはダメですよ!
美容整形については「準委任契約」があてはまらないはずです。
美容整形については少し置いておいて、まずは、風邪の治療行為がどうして「準委任契約」に該当するのか?です。
神渡: 流相君は風邪の治療をお願いしに行き、医者はそれを承諾した、という場合ですよね。
え~と、「委任契約」の冒頭規定(643条)では、
(1)法律行為の委託と
(2)承諾
が、「委任契約」の成立要件となっています。
準委任契約だと、
(1’)法律行為でない事務の委託と
(2)承諾
が「準委任契約」の成立要件となります。
阪奈: そうなるわね。
神渡: 治療行為というのは、法律行為ではありませんから、治療行為の依頼は、(1’)法律行為でない事務の委託に該当します。
そして、医者がその治療を(2)承諾しているので、流相君と医者との間には「準委任契約」が成立することになります。
ですので、流相君と医者との間には、644条以下の規定が基本的に適用されることになるわけですね?
上場: そういうことになります。
ですが、風邪の治療行為の依頼が常に「準委任契約」になるとは限りませんよ!
流相: え~~!
---次回へ続く---