玄人: 後は、問題文に書かれている要素を忘れてはいないかい?
流相: ん?・・・
玄人: もう一度、問題文を見てみよう。
甲は乙を部屋に閉じこめて、数時間にわたって殴る蹴るの暴行を加えた。その結果、乙は死亡した。あなたが検察官だとした場合、甲を何罪で起訴するか?
流相: 殴る蹴るの暴行を加えたんですよねぇ。
玄人: どれくらい殴る蹴るしてる?
流相: おっ!
”数時間”もです。
玄人: そうそう!
行為の時間は重要だ。
同じ程度の暴行の場合、継続時間が数分なのか、数時間なのかは殺人罪の実行行為性に大きな影響を与えるはずだ。
流相: なるほど~。
玄人: 問題文に書かれてある事情は熟読する必要がある。
殺人罪の実行行為性についてはこれくらいで良いだろう。
後は?
流相: ちょちょっと待ってください。
今、ノートにまとめてます。
阪奈: 因果関係に問題はありませんから、後は、甲に殺人の故意があるかが問題となります。
流相: (ちょっと待ってくれ~、阪奈女史!)
玄人: 故意はあるかな?
阪奈: これについては・・・
流相: これも僕が・・・。
故意概念については争いがありまして、認識説、認容説・・・
玄人: 流相。
今は学説の争いを分析する場ではないぞ!
法的枠組みに照らした事実評価の訓練をしている場だから、学説はどれでもいいんだ。
自分が採用する説から検討してくれ!
流相: はっ、はい。
えっと、僕は、犯罪事実の認識に加えて、認容も必要とする故意概念を採用しています(認容説)。
玄人: ふんふん。
で、その認容説からこの事例はどうなる?
流相: え~、甲は殴る蹴るの行為をしていることを認識しているはずです。
玄人: 何故それが分かる?
甲は無意識で行為していたかもしれないぞ?
流相: えっ?
無意識で?
神渡: 甲は乙を殴ったり蹴ったりする行為を数時間にもわたって継続しています。
通常、無意識でそんなに長く殴る蹴るの行為はできないと思うのですが・・・
玄人: そう、それで良い!
流相: あ~~、そういうことね。
言われてみればそうだよね。
玄人: この事例では犯罪事実を認識しているかどうかを疑わせるような事情は書かれていないから検討する必要はないといえるんだが、この場は練習だから突っ込んで聞いてみたんだ。
じゃ、犯罪事実の”認容”はあるかな?
---次回へ続く---