上場: まぁ、法律をたくさん勉強していてもスタート部分でつまずく人はかなりいますので、心配しないでください。
この事案で甲は誰のどの行為に不満を持つのでしょうか?
流相: そこはやはり、反戦ビラ配布という表現行為に刑罰が科されるということで、甲の表現の自由が侵害された、という点に甲は一番不満を持つのではないでしょうか?
上場: そこに甲が不満を持つことはたしかでしょうね。
被告人の代理人もそういう主張をしていますから。
流相: ですよね。
そうすると、後は、最高裁が展開した憲法論を分析すれば良い、ということですね?
上場: いえ、ちょっと待ってください。
実際に被告人の代理人が主張した憲法論だけではなくて、他にも憲法論を展開することができないか?という思考が必要です。
そういう意識を持つことが、事実の法的分析を上手くするコツなのですから。
流相: そうなんですね。
でも、僕には他の憲法論は考えられませんけど?
上場: そこは、もっと詳しい事案を知る必要があります。
その前に、甲の行為が有罪となるまでに関わる国家行為は何でしょうか?
憲法を解く際には、
どういった国家行為があるのか?
どの国家行為を対象に憲法論を構成するか?
という思考が重要になりますので、この判例の事案でも考えてみましょう。
流相:(1)捜査機関(警察)の逮捕行為
(2)検察官の起訴行為
(3)裁判所による有罪判決
という国家行為があります。
上場: 良いですねぇ。
良く分析できていますよ。
こういった国家行為があることを念頭に置いてこの事案をもう少し詳しく見ておきましょう。
実は、この事案では、玄関ドアの新聞受けには、甲が配った反戦ビラ以外にも、商業ビラ(宣伝ビラ)が多数ありました。
商業ビラを配った人は逮捕すらされていませんが、甲の反戦ビラは逮捕され、起訴され、さらに有罪となりました。
この事実があった場合、甲はどう思うでしょうか?
流相: え~!
何で自分だけぇ~、不平等だ、と思いますね、絶対に。
上場: そうですよね。
その甲の思いを何とか憲法論にすることはできませんか?
流相: 平等違反(憲法14条)ですか?
上場: そうですね。可能でしょうね。
ただ、流相君は、どの国家行為を対象としているのですか?
流相: どの国家行為を対象とするかで、何か変わってくるのですか?
上場: 変わってきますよ。
---次回へ続く---