流相: うん、たしかに。
どうして「合意原則」を重視する先生は「過失責任主義」を債務不履行責任に妥当させてはダメだと考えているのですか?
初戸: それは、「合意原則」を重視する私たちは、「契約の拘束力」を重視するからです。
流相: 「契約の拘束力」というのは、“契約を遵守すべき”、という意味ですよね。
阪奈: そうね。
で、債務者が債権者の利益(契約利益)を実現することを契約により保障した以上、債務者の行動の自由を保障することを主眼とする「過失責任原則」が債務不履行責任にも妥当するということは支持し得ない、と「合意原則」支持者は考えているということなの。
初戸: おっしゃる通りですね。
潮見先生もその著書の中でそう書いておられます(潮見佳男『プラクティス民法 債権総論(第3版)』(信山社、2007年)111頁)。
大きな枠組みで説明すると、次のようになります。
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“「合意原則」に基づき、債務者は、契約により引き受けた結果が実現されることについての責任を引き受けるべきで、契約の本旨に従った履行がない以上は、債務者は原則として債務不履行責任を負い、ただ、不可抗力や債権者に帰責性がある例外的な場合に債務者の免責を認める”
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ということになります。
神渡: 契約の本旨に従った履行がないことを充たせば、その不履行について債務者の故意・過失は不要だという理解で宜しいでしょうか?
初戸: そういうことになります。
流相: 契約と不法行為ってそんなに違うんですか?
阪奈: …
何言ってんだか。
流相: 債務者にだって行動の自由はあるんじゃないかと。
阪奈: それは契約を履行しない自由ということ?
流相: まぁ、そういうことだね。
初戸: 伝統的立場はそういう自由を認めているでしょうね。
履行しない場合は、債務不履行責任で解決すればいいと。
たしかにそういう考えもあるでしょう。
しかし、「合意原則」を重視すると、合意した以上、その合意は遵守されるべきなのですから、合意を破る自由はもはや債務者には認められないことになります。
流相: なるほどです。
たしかにそうなりますね。
神渡: さきほど、初戸先生は、“免責”という単語を使用されていましたが、“免責”と“帰責事由”というのは違うのでしょうか?
初戸: 鋭い質問ですね!
もちろん違います。
結論から言うと、
契約上の危険分配の枠外にある外在的なリスク・障害(不可抗力および債権者に帰責性のある障害)(潮見・前掲書111頁)
が生じた場合に債務者の責任を否定する理屈が“免責”ということになります。
流相: 「外在的」?ということは、“内在的”リスク・障害ということもあるのでしょうか?
難しい…
---次回へ続く---