---ロースクール1階のロビーにて---
神渡: そういえば、阪奈さん、山口先生の刑法総論の第3版が出ているよ。
阪奈さんはもう読んだの?
阪奈: もっちろんよ!
神渡さん、私を誰だとお思い?
流相: それは、乱暴で、男が嫌いで、負けず嫌いで、行為無価値論が嫌いで、結果無価値論が大好きで、僕に暴言ばかり吐く人?
---阪奈の後ろから突如登場---
阪奈: なによそれ!!
あんたの妄想でしょ、そんなの。
流相: 事実だ。
もっとあるけど、押さえておいたくらいなんだ。
阪奈: ハァ?
何なのよ!
喧嘩売ってるの??
神渡: まぁまぁ
そんなことよりも、山口先生が、『刑法総論[第3版]』(有斐閣、平成28年)において、承継的共同正犯の新説を打ち出しているの。
阪奈: もちろん、知っているわよ。
流相: へぇ~。
たしか、山口先生は、これまで否定説だったんだよね?
阪奈: そうよ。
第2版までは、こうおっしゃっていたの。
因果的共犯論を採る以上、これ以外の帰結はあり得ない。(山口厚『刑法総論[第2版](有斐閣、平成19年)350頁)
因果的共犯論を捨て去ることでもしない限り、承継的共犯は否定されざるをえないのである。近年の学説の支配的見解・・・が否定説であることには必然的な理由があるといえよう。(山口厚『刑法総論[第2版](有斐閣、平成19年)351頁)
阪奈:
これ以外の帰結
阪奈:というのは、承継的共同正犯否定説のことね。
流相: で、どういう立場に変わったわけ?
神渡: 山口先生によると、
後行者には不作為犯として、強盗罪・・・が成立する。(山口厚『刑法総論[第3版]』(有斐閣、平成28年)375頁)
神渡:として、先行者が強盗目的で被害者に暴行を加え、被害者の反抗が抑圧された後に、後行者が先行者と共謀し財物奪取に加担したという事例で中間説が主張する結論を認めているの。
流相: え?
ということは、山口先生は、因果的共犯論を捨て去ったの?
阪奈: そんなわけないじゃない!
流相: えっ?
だって、
因果的共犯論を捨て去ることでもしない限り、承継的共犯は否定されざるをえない(山口厚『刑法総論[第2版](有斐閣、平成19年)351頁)
流相:んだろ?
因果的共犯論は維持しながら、中間説を採用するなんてことは、自分が前に書いたことと真っ向から矛盾するじゃないか!!
もしや、山口先生、迷走中?
阪奈: あんた、失礼ね!!!
山口先生に謝りなさいよ、土下座して!
改説をしない学者なんていないわよ。
学者の先生方は、毎日一生懸命考え抜いているんだから、その過程で従来の考え方を修正することもあるでしょうよ!
流相: では、どういう理由で、因果的共犯論を維持しながら中間説を採用したんでしょうか!
是非とも教えていただきたいものですね!
阪奈: なによ、その上から目線の態度は!
どうせ結果無価値論なんて理解していないくせに。
流相: まぁ、僕は行為無価値論支持派だからねぇ。
---次回へ続く---