流相: ということは、この事案で、政治ビラ配布行為をした人が、
・逃亡の虞がなく、
かつ
・罪証隠滅の虞もない、
と認定された場合は、その人を逮捕する必要がない、よって、逮捕状請求は却下すべきで、にも関わらず逮捕状を発付した裁判官の行為は、刑訴規則143条の3に反し違法だ、ということになるんだね。
阪奈: 考え方の大枠はそうなるでしょうね。
でも、問題は、違法という結論になるのかどうか?
神渡: たとえば、次のような認定はどうでしょうか?
この事案で逮捕された人は、政治的信条に従って自衛隊員が住む集合住宅の玄関ドアに政治ビラを配布していました。それも何度も何度も。
この執拗さからは、たとえ、自分の行為が住居侵入罪に該当するとしても、自衛隊員の方にこそ、知ってもらいたいという強い意志・信念が感じられます。
そういう強い意志・信念を持っている人がそうそう逃亡するとは考えにくいかと思います。
むしろ、訴訟の場で、自己の行為の正当性を訴えたいのではないでしょうか?
また、罪証隠滅をしたのでは、訴訟の場を利用して自己の政治的主張をする機会を失ってしまいますから、罪証隠滅も考えにくいような気がします。
このように考えると、
・逃亡の虞
・罪証隠滅の虞
が認められないことになります。
逮捕の必要性が認められない、と推定するという”認定枠組”を借りますと、この事案ではその推定を覆すだけの認定をすることができないので、推定の通り逮捕の必要性がなく、逮捕状請求は却下すべきということになる。
というのはどうでしょうか?
流相: ・・・
・・・
す、すごい!
そういう認定もありかもしれない。
阪奈: なるほどねぇ。
被疑者・被告人の弁護士としてはそれくらい主張しても良いかもね。
上場: 良い分析じゃないでしょうか。
そこまで言えば大抵の人は納得すると私も思います。
弁護人として最大限、依頼者のために有利な法構成を考えるという1つの見本かもしれませんね。
良い感じですね。
では、さらにどういう構成が考えられるのか、次の国家行為を分析してみましょう。
無理そうでもなんとかできないか?という粘りの思考が要求されますね。
---次回へ続く---