玄人: こういう簡単な事例で検討してみよう。
甲は乙を部屋に閉じこめて、数時間にわたって殴る蹴るの暴行を加えた。その結果、乙は死亡した。あなたが検察官だとした場合、甲を何罪で起訴するか?
玄人: さあ、流相、どうする?
流相: え~と、暴行致死罪(刑法205条)での起訴を検討します。
玄人: ふ~ん、なんで?
流相: ”なんで?”と言われましても・・・
甲が乙を殴った結果、乙が死亡しているので、その殴る行為(暴行)から死亡結果が発生しているわけです。
だから暴行致傷罪かと・・・
玄人: 問題文を良く読んだか?
流相: は、はい。読みました。
玄人: 読んでそれかぁ・・・(重症だなぁ・・・)
流相: 何か問題が?
玄人: 君が検察官だとしてだよ、この甲を暴行致死罪で起訴することに量刑上問題はないか?
流相: 量刑上の問題?
玄人: 暴行致死罪の刑罰はどうなっている?
流相: えっと、
三年以上の有期懲役
流相:です。
玄人: その量刑に何か問題を感じないか?
流相: えっ?
神渡: 軽すぎる気がします。
玄人: そうだよね。
流相: でも、それは暴行致死罪の法定刑がそうなっているからで、罪刑法定主義の見地からはやむを得ないと思うのですが・・・
玄人: うん、甲の行為を暴行致死罪で起訴するならそうなるな、当然!
流相: えっ?
他に何罪で起訴せよと?
玄人: 法律の枠組みから事実を見るんだよ!
この事実を分析する場合、刑法的枠組みが重要となる。
刑法では、どういう法益侵害があるかがまず重要だと思うが?
流相: そうですね。
玄人: この事例で、どういう法益侵害がある?
流相: 生命侵害です。
玄人: 生命を侵害する罪で一番重い罪は?
流相: あっ、それは殺人罪(199条)です。
玄人: だよな。
この事例で甲を起訴する場合、検察官は殺人罪での起訴をまずは考えるんじゃないか?
流相: え~?
殺人罪ですかぁ?
殺人罪で起訴できますかね?
玄人: それは、殺人罪という刑法の枠組みからこの事例を分析することで分かるだろ?
流相: それはそうですね。
玄人: 甲の行為が、殺人罪の構成要件に該当するかどうかを検討していくんだ。
刑法的枠組みに照らして事実を判断するというのはそういうことだ。
流相が法的に問題となる事実をピックアップすることができないのは、こういう思考枠組みがしっかりしていないからだ。
直感で事実を分析していると、法的に問題となる事実を的確にピックアップすることは永遠にできないだろう・・・。
じゃあ、練習ついでに、この事例で甲の行為を殺人罪で起訴することができるかを検討しようか。
---次回へ続く---