玄人: 練習ついでに、この事例で甲の行為を殺人罪で起訴することができるかを検討しようか。
甲は乙を部屋に閉じこめて、数時間にわたって殴る蹴るの暴行を加えた。その結果、乙は死亡した。あなたが検察官だとした場合、甲を何罪で起訴するか?
玄人: 殺人罪の構成要件は?
流相:・死亡結果
・殺人の実行行為
・行為と結果の因果関係
・殺人の故意
です。
玄人: この殺人罪の構成要件要素に該当する事実がこの事例の中にあるかどうかをピックアップしていくわけだ。
それが事実を法的に分析するということの意味だ。
流相: なるほど!
僕が挑戦します!
いいよね、神渡さん、阪奈女史?
阪奈: どうぞどうぞ!
神渡: お願いします。
流相: え~と、死亡結果は問題なく充たします。
問題は、殴る蹴るの暴行行為が殺人罪の”実行行為”に該当するかどうかですね。
玄人: それが問題だな?
どうなる?
流相: そうですねぇ・・・
そもそも”実行行為”とは、法益侵害の現実的危険性がある行為をいいます。
この甲の暴行行為に、乙の生命侵害の現実的危険性があるかどうかの判断が必要です。
玄人: いいぞ!
その思考が法的枠組みに照らした事実の評価ということだ。
で?
流相: 殴る蹴るの暴行がどの程度の暴行だったのかによりますよね?
玄人: それは重要なポイントだな。
流相: でもこの事例ではどの程度の暴行だったか明らかではありませんが・・・
玄人: そうだな。
じゃあ、流相が検察官だとして、 暴行の程度を判断する際にどういう要素に注目する?
流相: そうですねぇ、乙のどの部分を殴ったり蹴ったりしたのかという暴行の部位に注目します。
玄人: うん、いいね。
どの部位を殴ったり蹴ったりしていたら、この甲の行為は殺人罪の実行行為にあたりそう?
流相: 人体の中枢部分ですよね。
たとえば、頭とかお腹とか。
玄人: そうだね。
あと、注目する要素は?
流相: う~ん・・・
力の入れ具合ですか?
思いっきり力を入れたのか?とか・・・。
神渡: 殴る行為よりも蹴る行為の方が破壊力が大きいと思うので、殴った回数と蹴った回数の比率も重要になるかと思います。
あっ、流相君、ごめんなさい。口はさんじゃった・・・
流相: いやいや全然構わないよ、神渡さん。
助け船ありがとう。
玄人: 他にもある?
流相: そうですねぇ、性別も重要な要素かもしれません。
もし甲が女性であれば、一般に女性は力が弱いですから、甲のこの行為は殺人罪の”実行行為”にあたらないことに傾くと思います。
阪奈: あら?
性別では何とも言えないわよ?
甲が女性プロレラーだったら流相が言ったことはあてはまらないもの・・・。
私は、性別よりは、甲の身体的特徴や経歴、たとえば
・筋肉質なのか?
・武術の心得があるのか?
とかに着目した方が良いと思うわ。
流相: あっ、あ~、ごめん。
阪奈: いや、別に謝らなくても・・・
玄人: 後は、問題文に書かれている要素を忘れてはいないかい?
---次回へ続く---