初戸: 内在的リスクというのももちろんあります。
内在的リスクは債務者が負うものです。
内在的リスクが顕在化したことに対して債務者の故意・過失は不要だと考えるのが、「合意原則」を重視する考え方なのです。
神渡: 債務者にとっては厳しい内容ですね。
内在的リスクの顕在化に債務者の故意・過失が不要というわけですから。
ですが、“合意は遵守されなければならない”という「合意原則」の考え方からはそうなりますね。
「合意」をすることで自らの行動の自由を制約することに合意した以上、不法行為責任のように行動の自由を保障する必要はない、ということですね。
初戸: そうです。
ややこしくなるかもしれませんが、伝統的立場と「合意原則」を重視する立場の考え方を主張立証責任の所在に照らして概観しておきます。
伝統的立場では、
債権者
1:債権発生原因
2:債務不履行事実
の主張・立証をし、
債務者
3:無過失の抗弁
を出す
ことになります。
「合意原則」を重視する立場では、
債権者
1:債権発生原因
2:債務不履行事実
の主張・立証をし、
債務者
3:免責事由の抗弁
を出す
ことになります(潮見佳男『債務不履行の救済法理』(信山社、2010年)90~93頁参照)。
流相: 要は、債務者が「無過失の抗弁」を出すのか、「免責事由の抗弁」を出すのか、の違いだけですよね。
神渡: でも、伝統的立場では、債務者の故意・過失等がない限り、内在的リスクが顕在化した場合であっても債務者は責任を負いませんが、「合意原則」を重視する立場では、内在的リスクが顕在化した場合は債務者は常に債務不履行責任を負い、ただ、外在的リスクが顕在化した場合に債務者の債務不履行責任を免責という形で否定することになりますので、意味するところは全く変わってきますね。
阪奈: そうね、まったく違ってくるわね。
要するに、「合意原則」を重視する立場においては、伝統的立場が用いる「帰責事由」というのは、独立した要件ではなく債権者が主張・立証すべき
2:「債務不履行事実」
を確定する際に必須となる一要素ということになるのね。
初戸: そういうことになりますね。
ただ、ここで注意してほしいのは、「合意原則」を重視する立場で、帰責事由に触れるとした場合、伝統的立場が用いる「帰責事由」とは内容が異なるということです。
「合意原則」を重視する立場が帰責事由という場合、その帰責事由とは、債務者の故意・過失等ではなく、債務不履行について債務者がなぜ責任を負わなければならないか?ということを意味しますので、その点は注意してください。
流相: つまり、「合意原則」を重視する立場では、伝統的立場が用いる「帰責事由」という概念は用いない、あえて同じ帰責事由という用語を用いるとしてもその内容は全く違っているということですね?
初戸: そういうことです。
で、これらの違いは、訴訟において、債権者と債務者が何を主張・立証しなければならないか?について大きな違いをもたらします。
流相: 民訴の話ですかぁ…
民訴って難しいんですよねぇ…。
できれば避けたい。
阪奈: 民訴を勉強しないと試験に受かんないんだけど?必須科目なんだから。
流相: うるさいなぁ!
分かってるよ!
---次回へ続く---