阪奈: 「契約目的に照らした契約規範の構築」という流れですね。
私的自治、契約自由の観点からは当たり前ではありますね。
初戸: その当たり前の原則から民法を捉え直すということです。
思想的には、当事者の「自律的意思決定」に重きを置くという
自律的決定・「意思」重視の思想(潮見佳男『プラクティス民法 債権総論[第3版](信山社、2007年)14頁)
です。
その核心は、
「両当事者が当該契約において下した評価が及ぶ限り、他律的規範の妥当(国家による介入)を許さない」(潮見・前掲書14頁)
ということにあります。
流相: なんだか憲法の自己決定権みたいな話ですね。
初戸: 無関係ではありません。
むしろ関係しています。
「個人の尊重」の民法での実現です。
阪奈: よくわかります。
ですが、個人の意思だけで契約規範を全て構築することは可能なのでしょうか?
個人は人間ですから、全てを見通すことは不可能です。当事者が想定していない場面というものが必ずあるのだろうと思うのですが…?
その場合はどうするのでしょうか?
初戸: そういう場面は当然出てきますね。
典型的には債務不履行の場合です。
契約時に初めから不履行にしようと思う当事者は通常いませんからね。
流相: そうですよね。
初戸: ただ、「自律的決定・「意思」重視の思想」を徹底して、契約締結時の意思(これを当初契約意思といいます)とは、別に不履行時の当事者意思を仮定して契約規範の内容を決するという考えがあります。
神渡: ”仮定”ということは、実際には当事者にそういう意思はないということですよね?
初戸: 事実としては、もちろんそうです。
阪奈: そうしますと、当事者意思を当事者の外部からみて、当事者の意思は「これだ」と決めるという事ですよね?
初戸: そうなりますね。
阪奈: そうであれば、信義則や慣習などで当事者意思を推測するしかないですから、結局、他律的規範による契約規範の形成ということになりませんか?
形だけ自律的決定・意思を維持しているだけのような気が…
初戸: そういう批判があります。
そこで、当事者の意思を重視するのではなく、他律的な規範形成を全面的に認める考え方があります。
関係的契約理論
と呼ばれる考え方です。
流相: 初耳です。
初戸: 日本にも有力な支持者がいます。
受験生の皆さんも知っている先生ですよ。
流相: 誰だろう?
神渡: 分かりません。
阪奈: 内田貴先生ですね。
初戸: よく、知ってますね。そのとおりです。
流相: どういう考え方ですか?
初戸: 内田先生は、こう言っています。
単に当事者がどのような合意を行ったかということだけではなく、現在に至るまでの当事者関係の歴史、当事者を囲む社会関係の変動、そして当事者の属する社会の行為規範、等々(内田貴『契約の再生』(弘文堂、平成2年)177頁)
を考慮材料として紛争を解決する理論です。
潮見先生は次のように紹介されています。
関係的契約理論は、契約規範の内容を、契約当事者の意思や自律的決定に依拠させるのではなく、契約をめぐる社会的背景(「関係」)を考慮に入れて、法共同体・生活世界のなかで共有されている規範(内在的規範)に基づいて確定すべきであるとするもの(潮見・前掲書15頁)
流相: うお!なんだか過激に聞こえます。
大丈夫なんですか?
---次回へ続く---