流相: だけど、”謀議”ってなんだろう?
単なる意思疎通や意思連絡を言うんですか?
阪奈: ”謀議”の内容に何を盛り込むかは難しい問題ね。
玄人: そうだな。
”謀議”に何を盛り込むかについては様々な議論があってややこしい。
ただ、ここでは、練馬事件判決を分析しておこう。
もう一度、練馬事件の規範を言ってみてくれ、流相!
流相: (また、僕~?)
は、はい。
2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。(最高裁昭和33年5月28年大法廷判決)
玄人: この判例では、”謀議”をどう定義づけている?
流相: ”謀議”とは、
2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする
流相:としています。
玄人: これは、単なる意思の連絡よりも絞り込まれている”謀議”概念だな。
阪奈: そうですね。
判例百選で、高橋先生もこう書かれています。
本判決は、共謀概念につき、単なる意思疎通・意思連絡ではなく、共同正犯を肯定し得る実質を備えたものと捉えているといえよう。すなわち、共謀とは、共同正犯と評価し得る意思疎通、たとえば、「共同犯行の意識」などの強い結合と解されている。(高橋則夫「共謀共同正犯(1)-練馬事件」山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選総論[第7版]』[2014]153頁)
玄人: そうだな。
共同性を肯定しうるだけの内容を持つ”謀議”に絞ったということになるだろう。
神渡: しかし、玄人先生、練馬事件は”共謀共同正犯”についての判決でした。
この判決の”謀議”概念が実行共同正犯の”謀議”にもそのまま当てはまるのでしょうか?
玄人: 良い疑問だ。
”共謀共同正犯”と”実行共同正犯”の違いはなんだ?流相!
流相: 実行行為を分担するか否かです。
玄人: 実行行為を分担するか否かで”謀議”概念の内容は変えるべきかどうかが問題になるだろう。
どう考えるべきか?
流相: 実行行為を分担しない”共謀共同正犯”では、実行行為を分担しないことから、共同正犯者に、より強い結合を求めるべきに思えます。
だから、”実行共同正犯”の”謀議”よりも絞った内容にすべきでは?と思いますが・・・
阪奈: でも、”共謀共同正犯”だって”共同正犯”だわ。
そして、”実行共同正犯”だって”共同正犯。
どちらも”共同正犯”であることに変わりはないわ。
だったら、”謀議”概念は同じであるべきではないかしら?
玄人: まぁ、どちらでもいいが、実行行為を重視する立場は、流相が言ったような考え方に親和性を感じるだろう。
逆に、実行行為ではなく因果性を重視する立場であれば、阪奈が言ったような考え方に親和性を感じるだろう。
どちらでもいいが、ここでは、”謀議”概念は”共謀共同正犯”と”実行共同正犯”とで同じだということにしておこう。
そうすると、”実行共同正犯”でも練馬事件判決の”謀議”概念を使うことができる。
で、今一度、共同正犯の判断枠組を確認しておこう。
玄人:ということだ。
以後、共同正犯では、この判断枠組に従っていくことになる。
---次回へ続く---