さぁ、今日は初めての法律の講義だ!
はりきって!
と言いたいところだけど、玄人先生が指定した教科書の意味が分からず、後悔と不安の気持ちで一杯。
その気持ちのまま学校に向かう。
学校は、都内にある、日本でも有数のロースクール。
いくら未修者コースとはいえ、私が合格できたのが信じられない。
「きっと最後の合格者に違いない。 」
自信を失っている私は、暗い気持ちのまま電車で学校に着いた。
ロースクールは、法学部棟の隣にある7階建ての新しい建物で、
建物の真ん中は、吹き抜けの構造になっており、ロの字型で部屋が配置されている。
1階は、事務局
2階から4階が研究室(全部で30部屋ある)
5階には、40人くらいが入る小さい講義室が8室
6階は、全部がロースクール生の資料室(法律書が数万冊ある。別場所に法学部専用の図書館もある)
7階は、数百人が入る大講義室 兼 模擬法廷
今日は、4階の小講義室での講義がある。
部屋に着くと、もう大体の受講生が座っていた。
空いている席が一番前しかなかったのでやむを得ず、その席に座る。
やがて、玄人先生が部屋に入ってきた。
身長は180cmはありそうな大きな先生だ。
一番前に座っていた私は、玄人先生を下から見上げることになった。
しかし、痩せているため、細長い。
年齢は40代前半といったところか?
玄人先生は、入ってくるなり、
「皆さん、私が指定した教科書を一通りは読みましたか?」
と聞いた。
それに対して、誰も明確な返答はしなかったが、読んできていることは明白だった。
付箋紙が貼られている教科書をたいていの人が持っていたから。
その一言から講義は直ぐに始まった。
出席を取ることもない。
一応、単位に数えられているのだけれど・・・。
「個々の学生には興味がないのかしら?」と私は思った。
講義は、
法とはなにか?」 から始まり、
「何故、法が存在するのか?」
「法律家は何をしているのか?」
ということを玄人先生は説明し始めた。
法的安定性だの、具体的妥当性だのといいつつ、政治家と法律家の違いにも触れながら講義は進んでいった。
淡々とした説明ではあったけれど、玄人先生は、図を白板に書いて、説明してくれたので、分かりやすかった。
そのため、自分で指定の教科書を読んだときは分からなかったことが、少しは分かったような気がした。
90分の授業はあっという間に終わった。
玄人先生の説明のうまさに感動した私は、講義終了後に玄人先生に直接質問をすることにした。
他の受講生は、講義が終わるとさっさと帰ってしまったので、私だけで、玄人先生を独り占めすることが出来た
「法的安定性と具体的妥当性どちらも大事ということですけど、ベクトルはそれぞれ逆向きだとおもうので、その両者が矛盾するときは、どうするのですか? 」
「そもそも、法的紛争かどうかはどう判断するのですか?」
「『判断枠組』は何故必要なのですか?」
「当てはめでは、何をしているのですか?」などなど、たくさんの質問をした。
すると、玄人先生は、
「この講義室は次の時間、使用予定が入っているので、私の研究室で続きをしませんか?」とおっしゃった。
なので、私は、玄人先生の研究室におじゃますることにした。
先生の研究室は、404号室にある。
先生に案内されて、404号室に入った私は、思わず
「ぎゃ!」
と叫んでしまった。
研究室の床は、中身のないペットボトルや宅急便の空き箱、コンビニ袋などが散らばっていて、足の踏み場もない状況だったから。
玄人先生は、何も気にする様子もなく、奥からパイプ椅子を持ってきて、
「これに座ったら良いよ」
と言ってきた。
立っていてもしょうがないので、その椅子に座った。
「足はどこにおいたらいいのだろう? 」
と内心思いながら、足でこっそりとゴミ?を側によけて足置き場を確保した。
そして、大講義室での質問の続きをした。