玄人先生の研究室404号室で質問をすることになった私。
研究室のあまりの散らばり具合に驚いたけれど、質問をすることには何の問題もないので、質問を続けることにした。
(1)『法的分析』って何ですか?
神渡 :そもそも『法的分析』って何ですか?
玄人 :そこから来たか。
それは、 法的問題が含まれる紛争のことだよ。
神渡 :それは、そうですけど・・・。
そうすると、ある紛争があった場合、それが法的紛争であるかは、法的観点から問題があることを知っていることが前提となりますよね。
玄人 :そうだよ。
神渡 :でしたら、個々の法律を知らないと、ある紛争に法的問題が含まれているかを知り得ないということですよね。
玄人 :当然、そうなるね。
神渡 :じゃ、法律知識のない一般人であれば、自己が抱える紛争が法的紛争であるかを判断することができない、ということですよね。
玄人 :そうなるね。
神渡 :先生は、講義で、法律は、国民の法的紛争を解決するために存在するとおっしゃいました。
しかし、一般人が自己が抱える紛争が法的紛争であるかを判断することが出来ないのであれば、そもそも弁護士に相談するわけもありません。それでは、法律の存在意義はないように思うのですが・・・。
玄人 :まぁ、たしかにそうなるねェ。
神渡 :それで、良いのですか?
玄人 :でも、考えてごらんよ。自然現象について科学者は色々と科学的議論をしているよね。彼らは、それまで人類が獲得してきた科学的知識を前提として自然現象を分析している。そうすると、自然現象の分析も、専門的な科学的知識の存在を前提としているんだ。その意味では、専門的議論というのは、専門知識を前提としなければなしえないということを意味するよね。法的議論についても同じなんだよ。『法的分析』が法的議論のきっかけなんだけれど、きっかけを掴むためには、法的知識を持っていなければならないわけだ。
ということは、法的紛争を適切に解決するためには、個々の国民が法的知識をある程度持つことが不可欠となるんだよ。法律は法律の専門家だけのものではない。国民のものである以上、国民自身も一般教養として法律知識を持つことが不可欠となるわけなんだ。神渡さんが持つ疑問はもっともだけど、その解決は、国民の法律知識の有無・その程度にかかってくるわけだ。神渡さんは、弁護士志望なのかな?
神渡 :はい、そうです。
玄人 :弁護士は、依頼者からの依頼を受けて弁護活動をするんだが、世の中には、法律知識がないが故に、裁判をすれば勝てる人が泣き寝入りをするという事態が多々ある。そういう泣き寝入りをしている人々を助けることも弁護士の仕事だ。
たとえば、法的知識の啓蒙活動をすることはその一例だろうね。世の中には、親の借金は子である自分が返さなくてはならないと思っている国民がまだまだ存在している。相続放棄制度を知らないが故に、親の多額の借金で生涯苦しむ人もいるんだ。相続放棄制度を知ってさえいれば、弁護士に相談するなりして自己の正当な利益を守れたのに・・・。
神渡 :そうなんですね。良く分かりました。私も、早く弁護士になって泣き寝入りする国民が出てこないように頑張りたいと思います。
・・・次の質問に移っても良いですか?
玄人 :ああ、良いよ。でも、少し待って、飲み物を買ってくるから。講義で喉が渇いちゃったからね。直ぐ戻るからここで、ゆっくりしていてくれるかい?
神渡 :はい。
(でも、こんなに散らばっている部屋ではゆっくりできないから、その間に研究室の掃除でもしようかしら・・・)。