玄人 :《過去問》
旧司法試験昭和54年第1問の検討を始めよう。
≪過去問≫
甲は、乙と路上で口論していたが、乙が突然隠し持っていた短刀で切りかかってきたので、とっさに足もとにあったこぶし大の石を拾って投げつけたところ、石は、乙の額をかすり、さらに、たまたま、その場を通行中の丙の目に当たった。そのため、乙は全治3日間の傷を負い、丙は片目を失明した。
甲の罪責を論ぜよ。
この問題をどう分析する?
流相 :丙に対する傷害罪(刑法204条)の成否を検討します。
神渡 :乙に対する傷害罪の成否から検討した方が良いのではないですか?
玄人 :どうして?
神渡 :甲は乙を明確に意識して投石しているからです。
玄人 :そうだな。その方が良いと思う。
流相 :(やべっ!論点に飛びついちゃったなぁ)
玄人 :乙に対する傷害罪は成立するだろうか?
神渡 :甲の投石行為が傷害罪の構成要件に該当することに特に問題はないと思います。
一応検討しますと、こぶし大の石を人めがけて投げる行為は、人の生理的機能を傷害させる客観的危険性が認められますから、「傷害」行為に該当します。その行為から乙傷害結果が発生していることも明白です。
しかし、甲は、乙が短刀で自分に切りかかってきたことから自己の生命・身体の安全を守るために当該投石行為をしていますから、正当防衛(刑法36条)の成否が問題となります。
玄人:たしかに、正当防衛の問題が出てくるな。
しかし、ここでは、錯誤論に議論を限定したいから、乙に対する傷害罪の成否はこのくらいにして、丙に対する罪責を検討しよう。
流相 :甲は乙に投石する意図はありましたが、丙を認識していませんでしたので、丙に対する傷害罪の故意があるかが問題となります。
阪奈 :いきなりすぎます。故意の問題に行く前に、もっと検討することはあるはずです!
構成要件該当性、違法性阻却に問題はないと私も思いますが、一応、検討する必要はあります。
玄人 :阪奈さんの言う通り。
でも、まぁ、今回は特に検討しないでおきましょう。
故意の問題に行こう。
流相 :ここで、やっと錯誤の問題を検討するんですね。
神渡 :でも、講義の始めに、錯誤論は故意論の裏返しですから、確定的故意がなくても、未必の故意がないかをまず検討する必要があるように思いますが・・・。
阪奈 :そのとおりだと思います。
流相 :(しまった)
玄人 :流相はせっかちだなぁ。
神渡 :甲乙は路上で口論していますから、甲にはその場を通行する丙を認識していた可能性もあると思いますが・・・
阪奈 :その可能性もあるとは思いますが、問題文には「たまたま、その場を通行中」とあるので、甲が丙を未必的にも認識していたと読むべきではない、と思います。
玄人 :阪奈さんの言う通りだ。
ということでやっと錯誤論の問題にたどり着いた。
・・・(2)へ続く。