玄人 :神渡さんが分析した通りに構成要件該当性、違法性、責任の順で分析して初めて「原因において自由な行為」論のスタートに経つことができることを確認したので、次に行こう。
学説はどうなっている?
流相 :はい、「行為と責任同時存在原則」を修正する“例外モデル(責任モデル)”と原因行為に実行行為性を認める“構成要件モデル”があります。
玄人 :そうだが、もっと大きいところから分析を始めてみようか?
流相 :(もっと大きいところ?)
阪奈 :「原因において自由な行為」について犯罪は成立しないという犯罪不成立説と犯罪成立説とにまずは大別されます。
その上で犯罪成立説の中で、流相君が言ったように、
(1)例外モデル(責任モデル)と
(2)構成要件モデル
があります。
玄人 :そうだ。
大きな分岐点から学説は分析することを意識しよう。
犯罪不成立説を主張している人はかなり少数だ。
なので、まずは犯罪成立説から分析しよう。
(1)例外モデル
(2)構成要件モデル
はどういった内容だろうか?
阪奈 :(1)例外モデルは結果行為時である実行行為時に責任能力がなくても原因行為時に責任能力があることをもって行為者に責任を認める見解です。
玄人 :おっと、ここで用語の確認をしておこう。
原因行為と結果行為とは何?
流相 :原因行為は冒頭の例で言いますと、大量に飲酒をする行為です。
そして、結果行為は刀で甲に斬りかかる行為です。
玄人 :そうだな。
では、何故「原因において自由な行為」というのだろうか?
流相 : ・・・?
神渡 :え~と、冒頭の例で言いますと、Aは実行行為時(結果行為時)には是非弁別能力や行動制御能力がない責任無能力状態ですからこのままではAの責任を問えませんが、飲酒行為が原因となってAは甲を殺害しているのですから、その飲酒行為を甲死亡結果の原因行為であるとみて、その原因行為を理由に犯罪を成立させることができないか?と分析するからではないでしょうか?
玄人 :そうだ。
良く分析されている。
では、“例外モデル”の分析を続けようか?
この“例外モデル”は原因行為時に責任能力があることをもって完全な責任を問うことが出来ると考えているわけだが、それは何故だろうか?
流相 :「責任能力の状態での犯意がそのまま実現されたときは、実行行為の時に責任能力がなくとも、発生した結果について責任を問うことができるであろう」という説明をする見解があります(平野龍一『刑法 総論Ⅱ』<有斐閣、1975年>305頁)。
また、最近“例外モデル”として、責任能力を違法性の意識の可能性と同様に解する見解もあります。山口先生などが主張されています(山口厚『刑法総論[第2版]』<有斐閣、2007年>257頁)。
玄人 :では、この2つの見解から分析してみようか?
玄人 :おっと、その前に学説の分岐図を書いておこう。
構成要件モデルについては先回りして説を書いておく。