富公:言葉の本来の意味での“直接性”が認められなくても判断の最終性があるならば、判例の「処分」概念にいう「直接」性を充たすという理解で良いと思います。
“ファイナル性”を手始めに実際の法令を使って検討してみましょう。
・医療法と
・健康保険法
でいきます。
病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)で問題となった法律です。
この判例で問題となった医療法と健康保険法は、今では改正されています。
その改正された法律で検討してみましょう。
改正された法律の方が“ファイナル性”の判断の練習になりますから。
病院を開設する場合、都道府県が定めた医療計画(医療法30条の4)の達成推進のために、「特に必要がある場合」に、都道府県知事は、病院などを開設しようとする者に対して、病床数の増加や病床の種別の変更等を勧告することができます(医療法30条の11。病床総量規制)。
都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には、病院・・・を開設しようとする者・・・に対し、・・・病院の病床数の増加・・・に関して勧告することができる。(医療法30条の11)
富公:この“勧告”は行政指導です。
この“勧告”には従わないといけませんか?
阪奈:いえ。
行政指導は事実行為ですから、従う法的義務はありません。
富公:そうです。
では、従わない場合はどうなりますか?
阪奈:え~と・・・
分かりません。
富公:実は医療法に規定はないのです。
そこで、健康保険法を見て欲しいのですが。
健康保険法65条4項2号です。
何と規定されていますか?流相君。
流相:はい。ペラペラ・・・
(保険医療機関又は保険薬局の指定)
第六十五条 第六十三条第三項第一号の指定は、政令で定めるところにより、病院若しくは診療所又は薬局の開設者の申請により行う。
2 省略
3 省略
4 厚生労働大臣は、・・・次の各号のいずれかに該当するときは、その申請に係る病床の全部又は一部を除いて、第六十三条第三項第一号の指定を行うことができる。
一 省略
二 ・・・医療法・・・に規定する地域における保険医療機関の病床数が、・・・厚生労働大臣が定めるところにより算定した数を超えることになると認める場合・・・であって、当該病院又は診療所の開設者又は管理者が同法第三十条の十一の規定による都道府県知事の勧告を受け、これに従わないとき。
三 省略
流相:と規定されています。
富公:つまり、どういうことですか?
流相:う~ん・・・
医療法30条11の「勧告」に従わないときは、病院が申請した病床数の全部・一部について保険医療機関の指定がなされない(=拒否される)ということかと思います。
富公:よく分析されてます。
保険医療機関の指定が拒否されると病院はどうなりますか?
流相:医療保険が使えないと思います。
富公:そうです。
健康保険法76条1項は、
保険者は、療養の給付に関する費用を保険医療機関・・・に支払う
富公:と規定していますからね。
そうすると、病院はどうしますか?
流相:保険が効かないなら、患者から医療費全額を徴収せざるを得ません。
富公:病院は慈善事業ではないですからそうなりますね。
これまでの流れを簡単に図示しておくと、こうなりますね。
勧告(医療法30条の11)
⇓
不服従
⇓
指定拒否(健康保険法65条4項2号)
⇓
保険医療機関指定がされない(法効果)
です。
勧告を起点とする一連の行為から保険医療機関指定がされないという法効果が発生するのですが、その間に“ファイナル性”が認められるのでしょうか?
神渡:あっ、勧告と保険医療機関指定がされないという法効果との間に「指定拒否」という別の行為が介在していることが問題なのですね。
しかも、勧告する主体は「都道府県知事」(医療法30条の11)ですが、指定拒否する主体は「厚生労働大臣」で(健康保険法65条4項柱書)異なっています。
別の主体が間に介在していますので“直接性”が否定されるのではないか?ということですね。
富公:ずばり問題の本質に切り込んでいます。
では、どう考えるのでしょうか?
---次回へ続く---