阪奈 :ですが先生、適用法(準拠法)の判断基準が明確であるとしても、その適用結果が日本人からするととても受け入れられないという場合もあるんじゃないですか?
そのような場合には適用基準の明確性を修正しても良いのではないか?とも思うのですが・・・。
錆新 :良い指摘ですね。
たしかに、そういう主張をする方もおります。私も全面的に否定するつもりはまったくありません。
ただ、外国法の内容にまで踏み込んでしまうと、結局、外国法の内容を日本人の判断基準で見ることになります。
これは、フェアではないでしょう。法にはそれぞれのお国柄が現れているわけですから。
私は、国際私法においては、「内外法の平等」つまり価値中立を前提とする思考が重要だろうと思っています。
教科書でも「国際私法と実質法とは次元・平面の違うものであって、明確に峻別されなければならない」(29頁)とあります。私もこの指摘に賛成です。
神渡:ですが、錆新先生
国際私法にも
“公序則”(法の適用に関する通則法42条)
という考えがありますよね?
錆新:そうですね。
よく勉強されてますね。
その“公序則”というのは、
“準拠法の適用”段階で考慮されます。
全体の見通しをもう一度示しておくと、
(1)法律関係の性質決定
(2)連結点の確定
(3)準拠法の特定
(4)準拠法の適用
という国際私法の「思考枠組」の中で、
“公序則”は(4)準拠法の適用で検討すべき考えです。
神渡:「内外法の平等」とはいえ、外国法の内容について日本が関心を持つという理解で良いのですか?
錆新:
外国法の内容について日本が関心を持つ
錆新:というわけではないのです。
外国法の適用結果についてだけ日本は関心を持つにすぎません。
外国法の規定内容は普通、その国の社会状況や文化や伝統などにもとづき制定されるのですから、その外国においては通常合理性を有しているといえます。
いかにその外国法が日本で受け入れられないとしても、日本がその外国法の内容に立ち入って合理的か否かを判断することは外国主権の侵害で許されません。
通則法42条に規定されている“公序則”とは、外国法の内容自体を否定するのではなく、具体的事案における適用結果が日本の基本的私法秩序を侵害する場合に限定してその適用を排除するだけなのです。
教科書でも60頁に[説例4-2]がありますね。
神渡:あ、はい。
S国人X男は、日本に留学中にS国人Y女と恋に落ち、結婚することを決めた。Xは本国にすでに2人の妻がいるが、S国で適用されているイスラム法では、一夫多妻婚が認められている。XとYは、24条によれば婚姻の成立の準拠法が各々の本国法であるS国法であると考え、日本で本国の方式に従って婚姻した。この婚姻は、日本では有効な婚姻として認められるか。
神渡:という説例ですね。
錆新:そうです。
この説例はどうなりますか?
これまでに学んだ国際私法の「思考枠組」にそって分析しながら“公序則”のありかたを見てみましょうか。
神渡:挑戦してみます。
(1)法律関係の性質決定
XY間では、婚姻の有効性が問題となっています。
婚姻の有効性は、「婚姻」(通則法24条1項)と法性決定されることに問題はありません。
(2)連結点
各当事者の「本国」です。
ここでXYはいずれもS国人ですから、その「本国」はS国です。
(3)準拠法の特定
準拠法は「本国法」です。本国はS国ですから、「本国法」はS国法となります。
(4)準拠法の適用
S国法を適用すると、S国法では一夫多妻婚は有効なわけですから日本においてもXY間の婚姻は有効となります。
しかし、日本は一夫一婦制の国ですから、この結果を認めることは日本の公序良俗を害すると思います。
流相:今、神渡さんは、
この結果を認めることは日本の公序良俗を害すると思います。
流相:と言ったわけですが、その判断基準はどう考えればいいのですか?
阪奈:それは、42条公序則の趣旨から検討する必要がありますね。
42条公序則の趣旨は、自国の法秩序を維持する点にあります。
とすると、公序良俗とは日本民法90条の理解とパラレルに解すべきにも思います。
しかし、そもそも国際私法は錆新先生もおっしゃってましたように、「内外法の平等」つまり価値中立を前提とする思考が重要です。
そうであれば、自国の法秩序維持といっても、「内外法平等」の観点からその発動は厳格に制限すべきだと思います。
具体的には、
(a)外国法適用結果の異常性
(b)内国関連性
の相関関係で決すべきかと思います。
錆新:そうすると、[説例4-2]はどうなりますか?
阪奈:(a)について
S国法の適用結果は一夫多妻婚の有効をもたらしますが、その適用結果は、一夫一婦制を採用する日本の法秩序にとって極めて異常な事態です。
(b)について
また、この説例では、日本において婚姻し、日本において新婚生活を営むことが予定されていますから、日本との関連性は極めて密接です。
そうしますと、日本においてS国法を適用することは「公の秩序又は善良の風俗に反する」(42条)といえます。
よって、S国法の適用は排除すべきです、ということになります。
錆新:そういうことになるでしょうね。
---次回へ続く---