払猿:今日は、昨年の司法試験の憲法問題を例にして前回検討した「思考枠組」に沿って分析をしてみましょう。
試験問題のコピーは皆さん持ってきましたね。参考資料を入れても3頁ですから、そんなに長くはありません。この講義では、既に問題は読んでいるという前提で進めます。
設問1では、「2つの不許可処分」に関してAの訴訟代理人としてどのような憲法上の主張を行うか?と聞いています。
「2つの不許可処分」とは何ですか?
神渡:一つ目は、9月29日(日)実施予定のデモ行進申請のB県公安委員会による不許可処分です。
二つ目は、CゼミからのB県立大学の教室使用申請の当該大学による不許可処分です。
払猿:そうですね。
まずは、一つ目の不許可処分から検討しましょうか。「審査基準論」の「思考枠組」で分析してみましょう。
誰か、検討してみてください。
神渡:はい、挑戦してみます。
(1)利益状況の確認からします。
Aは公道を利用してデモ行進をしようと計画していました。公道を利用したデモ行進をするには、B県公安委員会の許可が必要です(参考資料1 第1条)から、Aはその許可をB県公安委員会に申請しました。しかし、B県公安委員会は、市民の平穏な生活環境を害したりする蓋然性が高いなどとしてその申請を不許可としています。この不許可処分により、Aはデモ行進を自由にすることができないという不利益を被っています。この不利益がAのデモ行進の自由を侵害していると思います。
次に、その不利益が憲法上の権利侵害にあたるかを検討します。これは、
払猿:あ、ちょっと待ってください。
皆さん、大丈夫ですね。参考資料1 第1条を挙げて利益状況を確認している点が重要ポイントですよ。神渡さんは空理空論ではなく、地に足がついた分析をしていると思います。
もし、できていなかった方がいたのなら、是非見習ってください。
進めてください。
神渡:次は、
(2)保護範囲論の問題です。
デモ行進の自由が憲法上保障されているのかという問題です。これについては、憲法上に明文規定はありません。ですが、憲法21条1項の「集会・・・の自由」で憲法上保障されていると考えます。
払猿:それは何故ですか?
神渡;:「集会・・・の自由」は、複数人が政治的意見を交わしたりする場を保障する自由です。この場の保障は、「自己統治」の価値や「自己実現」の価値を実現するために不可欠なものとして21条1項で憲法上保障されています。
対して、デモ行進は、複数人が集団で動きながら政治的意見等を他者へ伝達する行為です。デモ行進も集会の自由と同じく「自己統治」の価値、「自己実現」の価値を持ちます。もっとも、その集団は動いていますから、静的な意味を持つ集会の自由とは厳密には違います。しかし、複数人が動くということは一定の場所に集合した複数人が動くことで集合場所(場)を刻々と変えているものと同視することが出来ます。ということは、デモ行進はいわば「動く集会」といえます。ですので、デモ行進の自由は「動く集会」として「集会・・・の自由」で保障されていると解することができるのではないか?と思います。
払猿:良い論証だと思います。
憲法21条1項の条文を良く読んでいますね。多くの方は、デモ行進の自由は「表現の自由」で保障されるとするのではないかと思うのですが、「表現の自由」の前に、「集会」、「結社」、「言論」、「出版」と、具体的な自由の類型が憲法に書かれているので、まずはその具体的な自由の類型に含まれないか?と考えるのが素直な思考だと思います。
憲法は条文数が少ないからこそ、しっかりと条文を読むことが必要ですね。
続けてください。
・・・その2へ続く。;