今日の刑法の講義は、違法性だわ。
山口先生の本で読んだけど、行為無価値論と結果無価値論が対立しているということだった。
学者間では、結果無価値論が優勢らしい。
でも、判例は行為無価値的な発想が強いとのことだった。
司法試験の答案ではどの説で書けばよいのかしら?
神渡は朝ご飯を食べながらそんなことを考えていた。
学校へ行く準備をして駅に向かった。
電車では、流相君と一緒だった。
最近はよく同じ電車に乗り合わせるわね。
電車では、玄人先生の話し方の癖のことや、研究室がとても散らかっていることなど、どうでも良い話をしたりした。
そうこうしているうちに、学校がある駅に着いた。
駅から学校までは、歩いて5分もかからない。
一緒に学校へ向かって歩いた。
教室に入ると、結構な数の受講生が既に席に着いていた。
すぐに玄人先生が教室に入ってきた。
玄人 :皆さん、こんにちわ。今日は、前回予告したように違法性について講義をします。
刑法は、違法性・責任をどう理解するかにかかっています。違法性は、責任と並ぶ刑法の骨格部分ですので、その正確な理解は受験生の皆さんに必須です。今日は、違法性論の大きな考え方を理解することに力を入れます。この部分が理解できれば、違法性がらみの論点を体系的に一貫して理解することが出来ますから、気を抜かないようにしてください。
では、違法性とは何でしょうか?
学生H :はい。法に反することです。
玄人 :形式的にはそうですね。
では、法に反したか否かをどう判断するのでしょうか?
学生H :これについては、社会倫理規範を違法評価の基準とする「規範違反説」と法益の侵害・危険という外部的事態の惹起を違法の評価基準とする「法益侵害説」との対立があります。前者の「規範違反説」からは、社会倫理規範は意思を含めた人の行為を規律するものですから、違法評価は主観を含めた行為に向けられます。「規範違反説」からは、違法評価の対象に意思を含めるべきことになります。これを「行為無価値論」といいます。
これに対して、「法益侵害説」からは、違法評価の対象を結果の惹起に求めることになります。これを「結果無価値論」といいます。
玄人 :そうですね。よく勉強していると思います。補足すると、現在では、行為無価値論といっても結果無価値も考慮するので、上の「規範違反説」だけを違法性の実質と考える説はないといっていいでしょう。
ということは、現在は、法益保護という点で共通しつつ、刑法の役割をそれだけに尽きると考えるのか(結果無価値論)どうか(行為無価値論)で、争いがあるという状況です。行為無価値論者である福田平教授は刑法の役割を法益保護に求め、法益を保護するために刑法は法益侵害を志向する行為を処罰対象とする、とされています。同じく行為無価値論である井田教授は、法益保護主義に立ちつつも、法益保護目的を達成するために刑法は行為規範を提示して人々の意思・行動を統制するという方法を採るとし、それ故、行為規範に違反した「行為」が違法評価の対象になるとしています。これが、現在の行為無価値論といって良いでしょう。つまりは、法益を保護するために、事前予防として法益侵害を志向する行為を処罰対象とすると考えるのが現在の行為無価値論だと理解して良いでしょう。
行為無価値論と結果無価値論との対立は、未遂犯の問題でその違いが鮮明となってきます。詳しくは未遂犯のところで検討しよう。
玄人 :次に、主観的違法要素の検討を通じて、行為無価値論と結果無価値論の理解を正確にしよう。主観的違法要素の要否について学説はどうなっているかな?
神渡 :はい。
次回へ続く・・・。
誠に申し訳ございません。
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