今日の刑法の講義は「防衛の意思」についてだわ。
正当防衛に「防衛の意思」が必要なのか?という有名な論点ね。
前回の講義で勉強した違法性論の理解が関係しそうね。
神渡は、学校の学食にいた。
今日は、学食で阪奈さんと一緒にご飯を食べる予定だった。
席で待っていると、阪奈さんがやってきた。
何か面白くない顔をしている。
私何かしたかしら?
と思っていると、後ろから流相君が
「やあ」と言ってきた。
阪奈さんが不機嫌な理由はそれね。
相変わらず仲が悪いわね。
阪奈:ごめん、神渡さん、こいつまでついて来ちゃった。
神渡:全然構わないわよ。
流相:なんで、いいじゃんよ。
阪奈:学校に来る途中でたまたまこいつと会ったんだけど、思わず、今日学食で神渡さんと一緒に昼ご飯を食べる予定のことをしゃべっちゃったのよ。
そしたら、こいつ自分も行くとかいっちゃって。勝手について来たのよ。
流相:勉強の話でもしながらご飯を食べようよ。
阪奈:あんたとは思想的にも合わないから一緒にご飯食べても美味しくないのよ。
流相:(それは、こっちだって同じだよ。俺は神渡さんと一緒したいだけなんだから)
阪奈:何か言った?
流相:いや、何も言っていない。
それよりも、注文してこようぜ!
神渡:ところで、さっそくなんだけど、「防衛の意思」って何?必要なの?
流相:それはもちろん必要だよ。
阪奈:なに言ってんのよ!いきなり結論をいってどうすんの?順序よく話さないと意味わかんないじゃない。
流相:まぁ、それはそうだけど。
神渡:「防衛の意思」を巡って必要性と不要説の対立があることは本に書いてあるから分かったわ。
でも、必要説や不要説の内部でまた争いがあるのよね?
流相:そうだね。
神渡:そこら辺が意味分からないわ。
「防衛の意思」必要説からは、偶然防衛に正当防衛が成立せず既遂犯が成立するのよね?
流相:そういう考え方もあるね。でも、未遂犯にする考えもある。
神渡:う~ん。抽象的に議論しても分からないから、まずは事例を設定しましょうか?
『AがBを殺そうと思ってピストルを発射したところ、その直前にBもAを殺そうと思ってピストルを発射しようとしていたという状況で、Aが発射した弾がBに先に当たりBが死亡した』という事例で良いかしら。
流相:良い例だね。
神渡:初めに検討することは、何罪の構成要件に該当するかよね?
殺人罪(199条)であることに問題はないから、その検討をするわね。
ピストルを人に向けて発射する行為は、殺人の現実的危険性があるので、この行為は殺人罪の実行行為にあたる。そして、Bは死亡しているわ。その死亡の結果は実行行為の危険性がまさに現実化したものなので因果関係もあるわね。ということは殺人罪の構成要件該当性はOKね。
そこでやっと正当防衛の問題になるのよね?
流相:そうなるね。
今思ったけど、神渡さんが検討したみたいに構成要件該当性をきちんとする必要があるね。
阪奈:そりゃそうよ。だって、構成要件該当性があることを前提に違法性阻却が問題となるんだから。
流相:これまでは、あまり意識していなかった。ありがとう神渡さん。
神渡:えっ、いや、玄人先生に言われた通りにやっただけだけど・・・。
流相:法律をなまじ知っているとそういう基本的なところを疎かにしがちなんだなって反省したよ。
神渡:あっ、そろそろ講義室に行かなくちゃ!急いでご飯を食べるからちょっと待ってて。
以下の続きは、下記の書籍に収録されております。
なお、下記書籍には、「防衛の意思の内容」を新たに書き下ろしています。
付録もあります。
「防衛の意思の内容」を新たに書き下ろし! |