払猿 :A県下の洗髪設備なしの理容所が現状のままでの営業が出来ないという不利益を憲法論としてどう組み立てたら良いでしょうか?
流相 :え~と、営業の自由の侵害と構成します。
払猿 :営業の自由は、憲法何条で保障されていますか?
流相 :憲法22条1項で保障されています。
払猿 :22条1項には“営業の自由”と書かれていますか?
流相 :いえ、明文規定はないですが、「職業選択の自由」に保障されていると解されます。
払猿 :そうですね。その理由付けについては以前に検討したのでここでは省略しましょう。確認しておいてください。【対話】憲法(事例問題の解法~三段階審査論~)その2
払猿 :払猿 :営業の自由が憲法22条1項の「職業選択の自由」で保障されることを確認しました。
ということは、保護範囲論としては、憲法22条1項で良いということになりますね。
その次はどうしましょうか?
阪奈 :違憲審査基準論(正当化論)の検討に移ります。
払猿 :本問ではどう分析しますか?
阪奈 :違憲審査基準論では、
(1)権利の性質により「違憲の推定」か「合憲の推定」かのいずれかを選び(二重の基準論)、
(2)保護強度と制限強度により具体的な審査基準を設定するという枠組を用いますから、この枠組に従って本問を検討したいと思います。
払猿 :そうですね。
阪奈 :まず、権利の性質からですが、ここで問題となっている権利は「営業の自由」です。
この自由は、経済的自由です。経済的自由の制約があっても民主政過程での是正が可能ですから、経済的自由の制約については、合憲の推定を及ぼすべきだと思います。
その上で、保護強度と制限強度を検討して、具体的な審査基準を設定します。
本問では、現状での営業をすることが「営業の自由」の核心部分での保障なのか?が問題となります。「営業の自由」とは、選択した職業を如何に遂行するかについての自己決定を認める自由です。理容所という職業を選択し、そして洗髪設備を設けないという遂行形態をとることはまさに、選択した職業を如何に遂行するかについての自己決定の現れですから、洗髪設備を設けないで現状のまま理容所を営むことは「営業の自由」の核心部分だと思います。
また、A県下の洗髪設備なしの理容所は現状のままでの営業はできません。洗髪設備を新たに設置するか、廃業するかの二者択一状態に追い込まれます。A県の条例により、洗髪設備がない理容所は現状のままでは廃業を強制されるのですから、制限強度も強烈だと思います。
そう考えますと、具体的な審査基準は、厳格に解するべきです。
流相 :ちょっと待ってください。
洗髪設備を設けないで現状のまま理容所を営むことは「営業の自由」の核心部分ではないと思うのですが。
払猿 :それは何故ですか?
流相 :「営業の自由」の核心部分は、開業の自由と廃業の自由に限られると考えているからです。
現状のままでの遂行は開業でも廃業でもないですから、洗髪設備を設けないで現状のまま理容所を営むことは「営業の自由」の核心部分では保障されないのではないでしょうか?
払猿 :なるほど。
お二人の考え方の違いのポイントは、「営業の自由」を開業の自由と廃業の自由に限定するか否かにありそうですね。
この問題は、結局、保護範囲論の問題ということになりますね。
私としては、どちらでも良いと思いますよ。
ただ、流相君の場合、「営業の自由」の保障範囲を限定する理由は何でしょうか?
流相 :(え~と、何かの本に書いてあったんだけど・・・)
神渡 :話を聞いていて思ったんですけど、この争いは、営業の
(1)「開始」と
(2)「過程」と
(3)「終了」
の中で、(1)と(3)を「営業の自由」の核心部分とするのか?
それとも(2)まで含むのか?ということですよね?
払猿 :そうなりますね。
神渡 :私としては、自己実現の核心として保障すべきは、(1)と(3)だけで良いのではないか?と思います。営業は個人の内心事項と密接な精神的自由と違って、社会的なつながりが強いと思います。その分、他者との関係で制約に服する場面が多くなりますので、保障範囲の核心部分は限定すべきかと思っています。
流相 :(へぇ~。神渡さん凄い)
払猿 :とても良いんじゃないでしょうか。保障範囲を制限する理由が、精神的自由と比較しつつ述べられていて説得的だと思いますよ。
それを踏まえて、阪奈さんはどう反論しますか?
・・・(3)へ続く。