玄人: 判例分析講座の各論が始まる。刑法からだ。意外ではないかな?何故、刑法なのか?と。
これにはちゃんと理由がある。
刑法では、学説の「理論」と「判例理論」との乖離がとても大きい。学説からしたら判例は恣意的以外の何物でもなく、批判の対象だという位置付けがなされていると言っても過言ではない。民事系ではそう言ったことは刑事系ほどはないだろう。だが、実務家は刑事系においても常に「判例理論」を分析し仕事をしている。実務家にとっては「判例理論」が最重要だ。皆は実務家になるのだから、学説のみならず、「判例理論」もしっかりと研究しなければならない。
「理論」と「判例理論」の思考方法はだいぶ異なるから、「理論」的思考に惑わされないように。初心者の心で「判例理論」を分析していこう。
承継的共同正犯(平成24年11月6日)
初めに検討する判例は、承継的共同正犯に関する最高裁判所の決定だ。平成24年11月6日に第二小法廷にて下された。皆も知っている有名な決定だ。この決定の事案はどうだった?
流相: それは僕が。
百選によると・・・
玄人: 流相君、我々は最高裁の判断である“判例”を分析するのだから、百選ではなく、直接原文にあたるべきではないかね?
流相: ・・・あ、はい。分かりました。
原文によりますと、
前記1の事実関係によれば、被告人は、Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に、Aらに共謀加担した上、金属製はしごや角材を用いて、Dの背中や足、Cの頭、肩、背中や足を殴打し、Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており、少なくとも、共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害・・・を相当程度重篤化させたものと認められる
としております。
玄人: 要するに?
流相: 要するに、
先行者Aらが被害者Cらに暴行を加えCらに傷害結果が生じた後に、被告人が先行者Aらに共謀加担して被害者Cらに更に強度の暴行を加えた、という事案でした。
玄人: そうだ。この事案について、一番問題となったのはどの点だ?
流相: 先行者Aらの暴行行為から生じたCらの傷害結果について、後行者である被告人が罪責を負うのか?という点が最大の争点です。
玄人: そうだ。つまり、後行者は、先行者の行為により生じた結果についても責任を負うのか?ということだ。
では、この争点に関して、最高裁は何と判示した?
阪奈: ここは私が。
被告人は、共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負う・・・
と判示しました。
神渡: 要するに、被告人が関与する前に生じていた傷害結果について被告人は共同正犯としての責任を負わない、ということです。
玄人: まず、「判例の射程」を検討する前提として、この決定がどういう事案に対してなんと判示したかを確認しておこう。誰か?
流相: はい、僕が。
先行者が加えた暴行行為から傷害結果が発生した後に、後行者が先行者と共謀し更に被害者に暴行を加えた、という事案に対して、共謀加担前に先行者が既に生じさせていた傷害結果について被告人の共謀とそれに基づく行為が因果関係を有することはないので、後行者は既に生じていた傷害結果に対して共同正犯の罪責を負わない、と判示しました。
玄人: そうだ。
もう一つ確認だが、この判例は何の問題だとした?
流相: 承継的共同正犯の成否が問題となるとしました。
玄人: 何故?
流相: “何故?”ですか?え~と…
玄人: 基本中の基本だが?
---続く---
続きは、以下の書籍をご購読ください。
司法試験ー判例分析講座ー総論+各論(刑法総論・承継的共同正犯)【電子書籍】[ Strauss ]
|
【目次】