流相:照田先生、
・令状請求時
・令状執行時
の問題とは何のことですか?
照田:令状主義は、この2つの時点で機能するということだ。
受験生は大抵、令状主義が機能するのは令状請求時だと理解しているようだ。
捜査機関が裁判官に令状を申請し、その内容を裁判官が審査するという時点だ。
捜査機関が令状を申請する時点で自己抑制が働き、
その申請内容を裁判官が審査する時点で司法的抑制が働くわけだ。
ところが、令状主義が機能する時点は、令状請求時だけではない。
令状執行時にも令状主義は機能する。
いや、機能させないと令状主義は無意味なものとなるはずだ。
流相:?
照田:たとえば、令状を請求して司法的抑制が保障された令状を捜査機関が得たとする。
捜査機関は次にどうする?
流相:それは、令状を使って強制捜査をするはずです。
そのために令状請求をしたのですから。
照田:だよな!
で、令状を使って強制捜査をする時点に立ってみよう。
この時点で、捜査機関が令状記載の被疑事件と全く無関係の物を自由に捜索したり差押えたりすることができるとしたらどうなる?
流相:裁判官の司法的抑制は全く無意味になります。
ん?
あ~~、そういうことですねぇ。
令状主義は、令状の執行段階で捜査機関の強制捜査を監視する役割も果たすということですね。
照田:そういうこと!
令状請求時は、被疑者の権利保障を事前に保障することを意図している。
令状執行時は、事前に保障した被疑者の権利が令状発付後に違法に解除されないように執行を監視するということを意図しているわけだ。
そうすると、
“乙のポケット内にある物が甲宅内にあった物であることが捜索者にとって明らかであることが必要”
という理由も明らかだろう?
流相:はい!
乙のポケット内にある物が甲宅内にあった物であることが捜索者にとって明らかであるからこそ、その物に司法的抑制が及んでいることが保障されるわけです。
もし、乙のポケット内にある物が甲宅内にあった物であることが捜索者にとって明らかではない場合、その物に司法的抑制が及んでいるか不明確となるわけですから、捜査機関がその物を捜索することは司法的抑制が及んでいない物の捜索となり被疑者の権利侵害となりますね。
つまりは、司法的抑制により事前に保障されたはずの被疑者の権利が、事後の令状執行により違法に解除されることになってしまいます。
これでは令状主義の趣旨が害されますね。
照田:そういうことだ。
良くできたと思うぞ。
ちなみに、本問では、
乙のポケット内にある物が甲宅内にあった物であることが捜索者にとって明らかだったといえるか?
流相:え~と、
本問では、Aが甲宅の
室内に入ったところ、その場にいた乙が、テーブル上にあった物をつかみ、それをポケットに入れる
流相:のをAは直接見ています。
その後、乙は外に逃げていますが、Aは、
直ちに乙を追い掛け、甲宅から300メートルほど離れた路上で転倒した乙に追い付いた
流相:のですから、甲宅内にあった物を持った乙を見失うことなく追い掛け捕まえています。
ですので、乙が甲宅内にあった物をポケット内に所持していることはAにとって明らかと言えます。
照田:うん、そうだな。
良くできていると思う。
じゃ、次は
⑤覚せい剤入りビニール袋を差し押さえた行為の適法性について検討しよう。
---次回へ続く---