神渡:初戸先生、公信力アプローチと対抗問題アプローチの対立は、これまで不動産取引で議論されてきたように思います。
不動産は動産と違って即時取得制度がありません。ですので、既存の制度である177条の対抗要件でことを決するという判例の考え方も理解できます。
利益衡量上も理解することができます。
しかし、本問では即時取得制度がある動産についての問題です。
動産の場合、取消の遡及的無効(121条本文)を貫いて、譲受人を保護する制度として既存の即時取得制度を利用することが良いのではないですか?
逆に言いますと、公信力が否定されている不動産の場合に94条2項の類推適用による公信力アプローチを主張することの方が不自然な気がしますが・・・
阪奈:あ~、なるほど!
流相:う~ん。たしかに。
初戸:神渡さん、良いところに気がつきましたね。
神渡さんがおっしゃるように、動産の場合は即時取得制度(192条)がありますね。
その即時取得制度でCの保護を考えるべきではないか?というのが神渡さんの疑問ですね。
この疑問について何か意見のある方はいますか?
流相:本問では利益衡量上、対抗問題アプローチが可能でした。
ですので、即時取得制度を用いるべきではないように思いますが・・・
阪奈:流相君がいうのも分かりますが、そうすると、動産で即時取得制度が規定された趣旨が害されるような気もします。
神渡さんが今述べましたように、対抗問題アプローチがそもそも主張されたのは、不動産には即時取得制度がないことに原因がありました。
しかし、動産には即時取得制度があるわけです。
そうしますと、やはり対抗問題アプローチではなく、公信力アプローチ、いえ、即時取得アプローチが妥当なような気がします。
初戸:神渡さんや阪奈さんの考えは十分成り立つと思いますよ。
結局、この問題は、Cを保護するための要件として、Cの善意まで要求するのかどうか、つまりは取引安全と真の権利者の保護のどちらをどれだけ保護するか?という価値判断にかかってくるのだと思います。
その価値判断を導くことができる法律構成を採ればいいでしょう。
流相:自分が望む結論を導く法律構成を採用すれば良いということですか?
初戸:そういうことです。
流相:それで良いのですか?
なんだか自分に都合良く民法を使っているような感じを受けるのですが・・・
阪奈:そもそも法律解釈ってそういうものよね。
解釈は解釈者の価値判断が入るものである以上そうなるんじゃないかしら?
流相:ふ~ん。そうかもしれないなぁ~。
初戸:阪奈さんの意見通りですね。
ただ、1点注意すべきは、自分に都合良く民法を使うわけではないということです。
“都合良く”というのは、行き当たりばったりというニュアンスかと思いますが、論理一貫性を持って解釈をしていくことが必要です。
では、次に1(2)の検討に移りましょう。
---次回へ続く---