流相:難しい議論って何ですか?
そんな議論に踏み込もうとは思っていないんですけど・・・
初戸:まァ、半分は冗談ですから。
BがCに売却した甲絵画をAに返還しなければならないとき、なぜ、CはAにその甲絵画をAに返還しないといけないのですか?
その法的根拠は何でしょうか?
流相:え~と、それは、甲絵画がCの所有物ではないからです。
初戸:う~ん、不正確ですねぇ。
神渡:今、流相君が言ったことに加えて、Aが甲絵画の所有者だからだと思います。
初戸:そうです。
民法実体法の問題であっても、要件事実は常に意識してください。
流相:なるほど、そういうことなんですね。
<請求原因>
Aは甲絵画の所有権者である。
Cは甲絵画を占有している。
<抗弁>
・・・
<再抗弁>
・・・
という流れですね!
初戸:そうです。
それで、BC間の売買はつまりはどういう売買なのでしょうか?
神渡:他人物売買です。
初戸:はい。
では、条文は?
神渡:民法560条です。
初戸:そこにはなんと書いてありますか?
神渡:
「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」
神渡:と規定されています。
初戸:売主Bは買主Cに甲絵画の所有権を移転する義務を負っていますね?
神渡:はい。
初戸:では、Bはその義務を履行していますか?
神渡:いえ、履行していません。
初戸:そうですね。
そうすると、Bの債務不履行がありますね。
どの債務不履行でしょうか?
流相:はい、はい、
他人物を売ることが自体が不完全履行です!
初戸:先ほども流相君はそう言っていましたね。
では聞きますが、他人物の売買自体は可能ですか?
流相:え~と、
可能だと思います。
初戸:可能ですね。
他人物売買という条文があるくらいですから。
ではあらためて流相君、
本問で売主Bはどういう債務不履行をしたのでしょう?
流相:え~~?
(不完全履行じゃないっぽいなァ)
神渡:AがCに甲絵画の返還を請求した時点で、BのCに対する甲絵画の引渡は社会通念上不能となったと言えるのではないでしょうか?
阪奈:あ~、賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に転借物の返還を請求した時点で、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する、と言った最高裁判例(平成9年2月25日)を思い出しますね。
初戸:そうですね。事案は違いますが同じ価値判断があると思います。
流相:履行不能なんだ?
初戸:もし、流相君が言うように、他人物の売主が他人物を買主に売却したこと自体が不完全履行になるとすると、他人物売買を締結すること自体が不完全履行になるのではないでしょうか?
そうすると、他人物売買自体が可能であるとする民法560条と矛盾すると思います。
まァ、履行不能な契約を締結することも可能といえば可能ですから、矛盾は言い過ぎかもしれませんが、自然ではありませんね。
流相:あ~、なるほど!
初戸:ということで、本問の他人物売買はAが他人物買主Cに甲絵画の返還を請求した時点でBC間の他人物売買契約は債務不履行(履行不能)になります。
そうすると、どういうことになりますか?
神渡:履行不能については、民法415条後段について規定があります。
通常損害の賠償や特別事情によって生じた損害(特別損害)の賠償請求が可能となります(416条)。
また、契約の解除も可能です(543条)
初戸:そうなりますね。
民法典をよく勉強していますね、神渡さん!
では、勉強しているついでに、神渡さん、時効期間はどうなりますか?
神渡:債権の消滅時効期間は、権利行使が可能な時から10年間です(166条1項、167条1項)。
初戸:OKです。
他人物売買を債務不履行と考えると、基本的には今神渡さんが言ったことになるはずです。
しかし、ここでひとつ問題があります。
他人物売買の560条の隣の条文561条を見てください。
他人物売主の担保責任について規定されています。
この561条の担保責任との整合性をどう考えるか?という問題があるのです。
561条の担保責任ではどういう処理がされるのでしょうか?
---次回へ続く---