初戸:では、大問2です。
事案はどうなっていましたか?
流相:えっと、
AがBに甲絵画を売却し、BがCに甲絵画を売却した後に、AがAB間の売買契約をBの詐欺を理由に取り消した、という事案です。
論点的には、「詐欺取消前の第三者」の問題です。
初戸:そうですね。
どういう法律構成が考えられますか?
流相:・詐欺取消により復帰的物権変動があったと理解する対抗理論的な構成
と
・詐欺取消の遡及的無効(121条本文)による無権利的な構成
が考えられます。
初戸:条文はありますか?
流相:あっ、はい。
民法96条3項です。
次のように規定されています。
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
初戸:流相君が先ほど挙げた2つの構成は、この条文とどういう関係なのですか?
流相:この96条3項の解釈について上記2つの構成があるという関係です。
初戸:そうですね。
では、この2つの構成から96条3項はどう解釈されるのでしょうか?
流相:対抗理論的構成からすると、取消により復帰的物権変動が生じ、ACはBを起点とする二重譲渡の関係に立ちます。
動産の二重譲渡においては、引渡しの前後をもって優劣を決します(178条)。
初戸:そうすると本問ではどうなりますか?
流相:甲絵画は現在Cが所持していますから、Cが勝つ、ということになります。
阪奈:ちょ、ちょっと待って!
流相の、いや、流相君の考えによりますと、
Aが取り消す前に既にCは甲絵画を所持していますから、Aは取り消しても甲絵画を取り戻すことはできないことになりますよ。
流相:それが対抗理論的構成の帰結なのでは?
阪奈:いやいやいや、
それでは96条3項を設けた意味がないでしょう?
流相:そんなことはないです。
純粋な対抗理論だったら、第三者の善意・悪意は不問ですが、
96条3項では “善意” が要求されていますから。
第三者の “善意” を要求する点で、96条3項は対抗理論を修正し第三者の保護要件を重くし、詐欺取消権者を保護することを意図してるんです、民法は。
阪奈:なっ、なるほど・・・
ということは、本問ではCは甲絵画を所持していますが、それだけではなく、CがBの詐欺の事実を知らなかった(善意)ことがCが96条3項で保護されるためには必要ということですね。
流相:そうですね。
初戸:では、無権利的構成だとどうなりますか?
---次回へ続く---