今までの分析をまとめると、
「密接な行為」の議論は、処罰時期を「実行行為」に密接する前段階にまで前倒しするための議論で、
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「客観的な危険性」の議論は、「実行行為」該当性を判断するための議論、
ということです。
クロロホルム事件で、最高裁は、「密接な行為」の議論をしていますし、「客観的な危険性」にも触れています。
どういうことでしょうか?
さっき、私は、次のように言った。
「密接な行為であり、」と「客観的な危険性」がどういう関係にあるのかがこの文言だけからは不明だ。
[1]単なる並列なのか、若しくは
[2]「密接な行為」であるから「客観的な危険性」が認められるのか、又は
[3]重畳適用の関係なのか。
この[3]は今は触れないで留保しておこう。後でどういう意味か検討するから。
これまでは、[1]と[2]のどちらなのか?を検討してきた。
だが、「密接な行為」の議論と「客観的な危険性」の議論とが先ほど、神渡さんがまとめたような射程を持っているのだと仮定すると、[1]単なる並列とは考えにくい。
そうすると、可能性としては[2]か[3]なんだが、クロロホルム事件で判例は職権判断の1(5)で、
客観的に見れば、第1行為は、人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった。
と述べている。
だから、「密接な行為」が「客観的な危険性」判断の一要素であると判例が位置づけていると理解することは難しい。
重畳適用関係とはどういうことでしょうか?
たとえば、民法の表見代理で110条と112条の重畳適用というものがあります。
110条は、権限踰越の表見代理で、
112条は、代理権消滅後の表見代理
です。
その2つをある事実に重ねて適用するということです。
具体的には、代理権消滅後に-代理権消滅後ですから112条の適用の問題になります-消滅前の代理権限を越えて法律行為をした-代理権限を踰越しているわけですから110条の適用の問題となります-場合が110条と112条の重畳適用の問題です。
それと同じということね。
ということは、クロロホルム事件では、第1行為時点での「実行の着手」の有無、つまり処罰時期の前倒しの可否が「密接な行為」該当性で判断され、重ねて(同時に)第1行為の「実行行為」該当性も判断されるということになるわね。
何それ…?
意味不明なんだけど…
[1]単なる並列と[3]重畳適用関係は何がどう違うの?
だから、「密接な関係」と「客観的な危険性」とが単なる並列関係だとすると、「密接な関係」という形式的基準が「客観的な危険性」という実質的な基準の暴走を抑制する-つまり、危険性があるなら実行行為からどれだけ時間的場所的に隔絶していても「実行の着手」があるみたいな議論を否定する-し、逆も同様ということになるわけ。
重畳適用関係というのはそういうものではないね。ある事実にAを適用して、その後に次はBを適用するわけだから、AとBがそれぞれ牽制しあうということはない。
そうすると、クロロホルム事件では、処罰時期の前倒しの可否と「実行行為」該当性の2つが同時に問題となったので、その2つが重ねて適用された、ということになるのかな?
かなり難解です。
何故そんなややこしいことになったんですか?
---次話へ続く---