流相: それで、初戸先生、伝統的立場と「合意原則」重視の立場で、訴訟において、債権者と債務者は何を主張・立証するかについてどういった違いが生じるのでしょうか?
初戸: 難しくはないですよ。
簡単に言うと、
伝統的立場では、債権者が「債務不履行事実」を主張・立証した場合、債務者は自己に故意・過失がなかったことを主張・立証すれば責任を免れますが、
「合意原則」重視の立場では、債務者がいかに自己に故意・過失がなかったことを主張・立証しても内在的リスクの顕在化については責任を負うことになります。前にも言いましたが、「合意原則」重視の立場では、外在的リスクが顕在化した場合に債務者の債務不履行責任が免責されるだけです。
ですので、「合意原則」重視の立場において訴訟で問題となるのは、ある債務不履行の事実が、契約に内在していたリスクの顕在化した事実であるのか?それとも契約の外に存在(外在)していたリスクが顕在化した事実であるのか?ということになります。
神渡: ということは、
伝統的立場では、内在的リスクか外在的リスクかを問わず、債務不履行事実について債務者に故意・過失があるかを問題とし、
「合意原則」重視の立場では、債務不履行事実についての債務者の故意・過失の有無ではなく、内在的リスクの顕在化であるのか、外在的リスクの顕在化であるのか、を問題とする、ということですね。
初戸: そうです。
阪奈: 内在的リスクか外在的リスクか、は「合意内容」を基準に判断するのですから「合意原則」重視の立場は、まさに「合意内容」を重視する見解なんですね。
初戸: そうなのです。
どうですか?民法にも立派な理論がある、というのがわかりましたか?
神渡: はい!
私的自治原則からは当たり前のように思える「合意」の内容を理論の中心におくことで同じ民法がこんなにも違って見えるのだ、ということが良く分かりました。民法の奥深さに改めて気が付きました。
阪奈: 私も同感です。
流相: 僕も同感です。これで民法は暗記科目じゃなくなったかもしれません。
阪奈: 初めから暗記科目じゃないわよ!
流相: 制度がありすぎて覚えるのが多いじゃないか!
暗記も必要だろ?
阪奈: だ・か・ら
法律科目はそもそも暗記じゃないんだってば!
流相: そんな理想論ばかり言って…
初戸: …
神渡: 初戸先生、本日は本当にありがとうございました!
また、次回にご教授ください。よろしくお願いします。
初戸: えぇ、もちろん。
神渡: それでは失礼いたします。
---2人の背中を押しながら退出する3人---
---【合意原則】終---