富公:では、病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)におけるファイナル性の判断を見てみましょう。
この事件当時は、医療法と健康保険法は、今の医療法と健康保険法の内容と違っていました。
どう違っていたのかというと、勧告不服従が指定拒否事由になるとの明文規定がなかったのです。
具体的には、健康保険法65条4項2号です。もう一度見ておきましょう。
(保険医療機関又は保険薬局の指定)
第六十五条 第六十三条第三項第一号の指定は、政令で定めるところにより、病院若しくは診療所又は薬局の開設者の申請により行う。
2 省略
3 省略
4 厚生労働大臣は、・・・次の各号のいずれかに該当するときは、その申請に係る病床の全部又は一部を除いて、第六十三条第三項第一号の指定を行うことができる。
一 省略
二 ・・・医療法・・・に規定する地域における保険医療機関の病床数が、・・・厚生労働大臣が定めるところにより算定した数を超えることになると認める場合・・・であって、当該病院又は診療所の開設者又は管理者が同法第三十条の十一の規定による都道府県知事の勧告を受け、これに従わないとき。
三 省略
富公:こうなっていましたね。
勧告、指定拒否、法効果(保険医療機関指定がされない)の関係ももう一度見ておきましょう。
勧告(医療法30条の11)
⇓
不服従
⇓
指定拒否(健康保険法65条4項2号)
⇓
保険医療機関指定がされない(法効果)
現在の健康保険法には、勧告(医療法30条の11)不服従が保健医療機関の指定拒否事由となることの明文があります。
その明文があることで、指定拒否をする厚生労働大臣は、勧告をした都道府県知事の判断に法的に拘束されることになるわけです。
ここまでは大丈夫ですか?
神渡:はい。大丈夫です。
流相:もちろんです。
阪奈:はい。
富公:では、その明文がないとどうなるのでしょうか?
神渡:勧告不服従があっても、その不服従が指定拒否事由になるとの明文がないわけですから、厚生労働大臣は自分の判断で指定拒否をすべきか否かを判断することになるのではないでしょうか?
富公:そうですよね。
そうであればどうなりますか?
神渡:保険医療機関指定がされないという法効果は、厚生労働大臣の判断に基づき生じることになりますので、都道府県知事の勧告(判断)は、その法効果発生の最終判断ではありません。
よって、“ファイナル性”がなく「直接」という「処分」の要件を充たさないことになります。
富公:そうなるはずですよね。
しかし、この判例(最判平成17年7月15日)は、どう判断しましたか?
流相:まず、結論として、
勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる
流相:としました。