上場:民法上は、追認をすることができる時から5年間は取消権を行使することができるのに訴訟ではその権利行使を否定することはいいんでしょうか?
流相:(え~~、そんなこと言われても・・・。判例はそう言っているし・・・)
上場:判例の結論を採ることは全然問題ない、といいますか、試験的には判例があれば判例に従う方が良いと思いますが、それは判例に盲目的に服従するという意味ではありませんね。
判例が何故その結論を採用したのか?ということは常に意識して勉強する必要があります。
判例の理由は何でしょうか?
これを理解するには、逆に判例に反対する見解を見ることが有益です。
中野貞一郎教授がその代表者です。
誰かその説を説明することができる人はいますか?
阪奈:はい。
高橋宏志先生の本『重点講義 民事訴訟法(上)第2版』(以下では、高橋・重点<上>とします)に書いてありました。
詐欺による取消原因があるが取消権はまだ行使されていない権利・法律関係はそのようなものとして、つまり取消原因が付着しており将来取り消されるかもしれない権利関係として既判力をもって確定される。したがって、将来、取消権が行使されることは毫も既判力と矛盾抵触するものではない。既判力は取消権行使の可能性を内包したものとして存在するからである。
阪奈:と中野教授は主張されているようです(高橋・重点<上>605頁、606頁)。
そして、
逆に、通説のように既判力が取消原因を洗い流し以後取消権が行使できないというようにしてしまうことは、民法126条が取消権に保障した五年間の消滅時効期間(中野説では除斥期間)を奪うことになり、既判力が実体法を変えてしまう不当性を持つ。
阪奈:とも主張されているようです(高橋・重点<上>606頁)。
上場:つまり、中野教授は、何を重視しており、判例・通説をどういう理由で批判しているのですか?
阪奈:つまりは、中野教授は民法126条の規定を重視した上で、判例・通説では、既判力という訴訟上の制度が実体法を変えてしまうという点が妥当ではない、と批判されているのだと思います。
上場:そうでしょうね。
民事訴訟法と民法とがもし交差しない、つまり、民事訴訟法は民事訴訟法、民法は民法、という考えなら既判力が実体法を変えようが問題はないのでしょうが、民事訴訟法は民事実体法の権利を実現するという面がありますので、民事訴訟法と民法とは関連します。
ですので中野教授の批判に対して、判例・通説はちゃんと答えなくてはなりませんね。
判例・通説からは中野教授に対してどう反論しているのですか?
阪奈:議論のポイントは、民法126条の取消権行使期間を5年にしている趣旨の理解に尽きるかと思います。
中野教授は、追認可能時から5年間は、取消権行使が法的に保障されていると捉えています。
こう考えますと、訴訟法と実体法との衝突という問題が出てくるので、取消権は既判力で遮断されないという中野説に至るのが自然かと思います。
上場:そういうことになりますね。
阪奈:ですが、高橋先生もおしゃっておりますが、
この期間制限は、この期間を過ぎれば取消権行使はできないということを意味するにとどまる
阪奈:のだろうと思います(高橋・重点<上>606頁)。
つまり、この期間内に取消権を行使することができるか否かについては、民法126条は何も規定していない(=開かれている)ということです。
そうしますと、この期間内に訴訟が提起された場合、訴訟を通じた早期決着を重視して取消事由があれば訴訟にてその事由を主張すべきだ、と考えることが可能です。
流相:(へ、へぇ~。そうなんだ)
上場:理論としてはどうですか?
取消権は前訴訴訟物にどう関係しているのでしょうか?
神渡:それは、前訴訴訟物たる権利の発生障害事由です。
訴訟物たる権利自体に内在し、付着する瑕疵です。
基準時前に、その瑕疵は存在していますから遮断効を生じさせることができます。
また、紛争の蒸し返しを防止して法的安定性を保つという見地からはその瑕疵は前訴で主張すべきで、後訴では遮断すべきです。
ですので、判例・通説の立場が妥当かと思います。
上場:そういうことで良いのではないかと思います。
では小問二へいきましょうか。
---次回へ続く---