阪奈: 平成26年度、刑事系科目 第1問の検討を始めましょう。
まずは甲の罪責からね。
どの行為が問責の対象となるからしら?
流相: それは甲の不作為だよ。
甲が、
7月1日朝の授乳を最後に、Aに・・・授乳等・・・を一切しなくなった。
流相:という不作為が問責の対象となる行為だね。
神渡: そうね。これは私にも分かったわ。
明らかに不作為犯の問題よね。
阪奈: 甲は、
Aを殺害することを決意
阪奈:しているから、不作為による殺人罪(刑法199条)の成否を検討するわよ。
流相: 当然そうなるな。
神渡: Aは死亡しているから、殺人罪の構成要件の死亡結果は充たすわね。
ここで問題は、甲に作為義務があるかどうかね。
流相: ちょっと待ってよ。
不作為犯といっても、ここでの不作為犯は不真正不作為犯だよね。
不真正不作為犯の場合、不作為が明示的に構成要件要素として規定されていないのだから、不真正不作為犯を処罰することは罪刑法定主義に反するのでは?という根本的疑問があるよね?
これについて議論する必要がないかな?
阪奈: 学問的には未だに争いがあると思うけど、判例は当然に不真正不作為犯処罰を肯定しているし、学説の圧倒的多数も罪刑法定主義違反とはしていないから議論する必要はないと思うわよ。
流相: でも、罪刑法定主義という刑法の大原則に関して争いがあるんだよ?
そこに何も触れずにスルーするのってありかなぁ?
阪奈: 試験的にはありでしょ?
だって、もし不真正不作為犯の処罰が罪刑法定主義に反します、とした日にはそこでこの問題は終よね。
まさか、そんなことはできないでしょ?
この問題は、事情を拾って不真正不作為犯の成立要件に当てはめてください、という意図で出題されているんだから、不真正不作為犯処罰は可能だという前提で問題を解いても良いと思うわよ。
流相: 阪奈女史が言うのはよく分かるんだけど、僕としては一言、不真正不作為犯処罰は罪刑法定主義に反しないと言いたいんだよね。
阪奈: まぁ、一言なら良いかもしれないけど・・・
私だったら時間もないから書かないわね。
流相: 神渡さんはどう思う?
神渡: そうねぇ・・・
司法試験って実務家登用試験なのよね?
ということは、実務家が日頃どう考えているか?を私たちが考えることはとても重要な気がするの。
ところで、実務家の方々って、不真正不作為犯の処罰が罪刑法定主義に反するかどうかって気にかけているのかしら?
阪奈: それは気にしていないんじゃないかしら?
もっぱら、不真正不作為犯の成立要件と要件への事実のあてはめ、に集中していると思うわよ。
流相: それはそうだろうね。
神渡: とするなら、私も阪奈さんと同じで、不真正不作為犯処罰が罪刑法定主義に反するかどうかは書かないと思うの。
流相: OKOK。
そうかもね。
不真正不作為犯の成立要件と要件へのあてはめに時間を使うことにするよ。
じゃ、不真正不作為犯の成立要件の検討に入ろうか?
---次回へ続く---