初戸: 勢い余って「関係的契約理論」まで説明してしまいましたが、今回のポイントは、「合意原則」がどの論点にどういう影響を及ぼすか?を検討することにあります。
まず、一つ目として、「特定物理論」への影響を検討しましたね。
あと1つ重要な論点への影響がありますが、何だと思いますか?
流相: …何でしょう?
阪奈: 債務不履行の帰責事由の理解ですね。
流相: なんでわかる?
阪奈: あんたと違って真面目に勉強してるから。
流相: 俺だって勉強してるし。
阪奈: 覚えるだけでは勉強とは言わないわよ!
呪文じゃないんだから。
流相: な、なに~、所詮、試験ってのは覚えてなんぼだろ?
反射神経で解答するみたいな面があるわけなんだからさ。
理解理解っていっても受験生は何科目も勉強しないといけないんだから全て理解するには時間が足りなさすぎるよ!
阪奈: それは理解しないで暗記することの免罪符にはならないでしょ!
暗記で受かるほど甘い試験じゃないわよ!
流相: それはどうかな!?
神渡: まぁまぁ、流相君も阪奈さんも落ち着いて。
債務不履行の帰責事由って民法の中でも基本論点だと思うから、理解していた方がいいと私は思うの。
理解したいし。
だから、流相君もお願い、話に付き合って。
流相: も、もちろん。
神渡さんの言う通りだもんね。
付き合うから。
では、気を取り直して、初戸先生、お願いします。
阪奈: (このお調子者が…(怒))
初戸: まずは、債権の本質を債権者の債務者に対する履行請求権に求める伝統的民法理論(権利意思説)によれば、債務不履行の帰責事由はどう解されていましたか?
流相: 「債務者の故意・過失ならびに信義則上これと同視すべき事由」です。
初戸: そうですね。
たとえば、履行遅滞の要件はどうなりますか?
流相:
①債務の本旨に従った履行がないこと。
②債務者の帰責事由(債務者の故意・過失ならびに信義則上これと同視すべき事由)
流相:となります。
初戸: 正確には、債務の成立や損害の発生などが要件となりますが、まぁ、ここでは、それでいいでしょう。
伝統的民法理論と「合意原則」では、その「帰責事由」の内容をめぐって争いがあるのです。
流相: へぇ~、そうなんですねぇ。
「合意原則」を支持する先生方は、伝統的民法理論のどこに不満があるんでしょうか?
初戸: 伝統的民法理論が帰責事由として「債務者の故意・過失ならびに信義則上これと同視すべき事由」だと解釈したのは何故だと思いますか?
流相: たしか、過失責任主義に基づいているからだと。
初戸: そうです。
で、そこが不満なのです。
流相: そうなんですか?
ですが、不法行為責任においても「過失責任主義」が妥当します。「過失責任主義」が民法の基本原則なのですから伝統的民法理論の説明で良いのではないでしょうか?
初戸: 不法行為責任に「過失責任主義」が妥当するのは良いのです。
ですが、債務不履行責任にもその「過失責任主義」を妥当させることは妥当ではないと考えるのです。
流相: 何故でしょうか?
阪奈: そこがポイントね。
不法行為責任と債務不履行責任の異同。
初戸: まさに阪奈さんのおっしゃる通りです。
そもそも「過失責任主義」が妥当する根拠は何でしょうか?
流相: たしか、自分に過失がない限り、債務者の行動の自由を保障する点にあったかと。
初戸: その根拠が債務不履行責任にも妥当するのか?妥当させてもよいのか?ということなのです。
流相: えっ?
ダメなのですか?
初戸: 「合意原則」を重視する方々は、「過失責任主義」を債務不履行責任に妥当させてはダメだと考えるのです。
流相: そうなんですね。
神渡: それはどうしてでしょうか?
---次回へ続く---