玄人: 同意殺人罪を「単なる殺人」を構成要件に含む犯罪類型とした場合に、同意の認識は不要となるのではないか?
ということによく気が付いた!流相。
流相: そ、そうですか!
なんか久しぶりに褒められて嬉しいです。
神渡: たしかに、条文上は、「その承諾を得て」(202条)とありますから、「承諾を得」たことの認識が必要になりそうです。
玄人: そこは、「書かれた非構成要件要素」ということだ。
流相: えっ?
神渡: 条文には書いてありますが、構成要件要素ではない、ということですか?
玄人: そう、その通り。
流相: 条文と構成要件ってどういう関係…?
玄人: まさか、法学部で法律を学んだのに条文と構成要件の違いが分からない、ということはないだろうな?
流相?
流相: も、も、も、もちろんです!
玄人: だいぶ動揺してるなぁ。
一応確認しておくが、
条文≠構成要件
だ。
条文を解釈した犯罪成立要件を講学上、構成要件と呼んでいる。構成要件に何を含むかは人によってかなり違うが、今はその問題はおいておく。
流相: は、はい。
阪奈: 条文の文言が絶対じゃないという意味では、法律って難しいですね。
玄人: そうだな。
だからこそ、法律の専門家が必要となるんだ。
ちなみに、殺人罪の故意が成立するためには、同意がないことの認識が必要だ。
これは、書かれざる構成要件要素。
流相: …
ややこしい、ややこしいです!
一般人にそんな説明をしても理解してもらえないと思いますよ。
不自然な解釈です!
どうしてそんな不自然な解釈をするんでしょうか?
玄人: それは初めから聞いていればわかるはずだが?
流相: …
すみません、分かりません。
玄人: 一言で言えば、主観における罪刑法定主義を保障するためだ。
抽象的事実の錯誤論を、認識した不法の量で解決するのではなく、主観における罪刑法定主義を充たしているか否かで解決するために上記のような解釈をするんだ。
故意とは構成要件該当事実の認識である
との理解を真剣に考える限り、
Xが被害者Yの同意を得たと誤信して、Yをナイフで刺し、Yを殺した
という事例では、Xの認識に対応する犯罪(要するにXには同意なく殺したとの殺人罪の認識がない以上、同意殺人罪)の構成要件該当性が絶対に問題となるはずだ。
Xの認識に対応する同意殺人罪の構成要件が客観的に成立しているのか?
そうでなければ、Xの認識以前に同意殺人罪の構成要件該当性が否定されて、Xに同意殺人罪も成立しないことになるはずだ。
流相: では、この考え方以外は、故意とは構成要件該当事実の認識である、との理解を真剣に考えていない、ということですか?
玄人: そういうことになるな!
違法の量を問題にしている時点で、故意を違法の量の認識に置き換えており、故意と構成要件の密接な関係を否定していることになるのだから。
構成要件と違法の量は別のことだ。
阪奈: 神渡さんも、
構成要件は違法の量ではない「違法の量の軽重と構成要件の重なり合い―【抽象的事実の錯誤論】3―司法試験【対話式 論点分析】」
と言っていたしね。
流相: そうか!
そういうことか!!やっと分かった。
ここまで理解するのにどれだけかかったんだ、俺?
同意の認識の有無の論点をただ覚えていただけだったけど、ポイントはただ一つ、
故意とは構成要件該当事実の認識
という基本をしっかりと押さえておくことに尽きたんだ!
だったら、基本書にもそう書いていてほしかった…。
分かんないよ…。
阪奈: 何甘えてんのよ!
そこを理解するのが勉強でしょ?
分からなければ調べたり、聞いたりするのよ。
玄人: 法律科目は全てそうだが、ブレない基本的な知識を身につけて、その基礎知識で徹底的に考えることが結局は理解の近道なんだ。
覚えることが減るので、勉強も楽になる。
どうだ、流相?少しは刑法が楽しくなっただろ?
流相: はい!!
これからは、“理解の流相”で勉強します!
阪奈: お調子者ね(笑)
神渡: ふふ(笑)
---【抽象的事実の錯誤論】終---