払猿:デモ行進の自由が「集会・・・の自由」の核心で保障されているとの阪奈さんの論証は良いと思います。
では、神渡さん続けてください。
神渡:はい。
次は、(イ)制限強度を検討します。
本問では、条例により集団行動にはB県公安委員会の許可が必要です(B県条例第1条)。その許可がなければ集団行動をすることができません。
そして、Aは申請を不許可とされて、デモ行進をすることができなくなっています。
その不許可理由は、「住民の平穏な生活環境を害したり、商業活動に支障を来したりする」という弊害にあります。
しかし、Aは、前2回のデモ行進を、拡声器等を使用せず、ビラの類も配らずに平穏に実施していたのですから、今回の不許可処分は規制の根拠がAのデモ行進の仕方にはない外部的事情(住民投票実施)による制限といえます。
この外部的事情による制限はAが如何ともしがたい制限ですから、単なる不許可処分に比べても制限の程度は強いと言えます。
そうしますと、制限強度は最強強度にあると思います。
払猿:なるほど!
「外部的事情による制限」という視点は良いですね。着眼点が良いと思いますよ。
ですが、本事案の制限理由は神渡さんがおっしゃるように弊害発生の阻止にあります。
この規制は通常なんと呼ばれていますか?
神渡:内容中立規制と呼ばれています。
払猿:内容中立規制の規制強度は内容規制に比して弱いと思うのですが・・・。
神渡:あ、そうですね。
払猿:制限強度が最強強度にあるというにはひと工夫が必要になりますね。
どうしましょうか?
神渡:内容規制にあたるというしかないと思います。
払猿:そうなるでしょうね。
建前の規制は内容中立規制ですが、実質的には内容規制であるということをAの代理人として主張することが代理人としての腕の見せ所になると思いますよ。
ここはどう主張しましょうか?
神渡:Aは1回目、2回目のデモ行進と同じ態様でのデモ行進をする予定でした。
しかし、3回目は住民投票の実施と時期的に重なる点があり、B県公安委員会は不許可としています。これは、実質的には、住民投票でB県に不利な投票結果にならないためにAのデモ行進を不許可としたと理解することが常識的かと思います。
ですので、今回の不許可処分は、内容規制にあたると考えます。
払猿:考え方の筋はその通りでしょうね。
実際に答案を書く際には、事案から具体的事情を引っ張ってきて評価を加え、だから「内容規制」に該当すると書くことになるはずです。
では、神渡さんの考えによると、具体的な審査基準はどうなりますか?
神渡:保護強度が強く、制限強度も強いですから、「厳格審査」基準とすべきです。
この基準によると、目的が不可欠で、手段は目的達成にとって必要最小限度である場合に合憲となります。
払猿:この基準によると、本問はどうなりますか?
神渡:すみません、自分で言っていて申し訳ないのですが、「目的が不可欠」とはどういう意味でしょうか?
「LRAの基準」にいう目的が「重要」とは言葉が違う以上、内容も違うと思うのですが、どう違うのか分かりませんでした。
払猿:誰かこの点について説明することが出来る人はいますか?
阪奈:「目的が不可欠」ということは、憲法上の権利を制限するのに匹敵するだけの目的でなければならないという意味だと思います。
そうしますと、その目的は、制限される憲法上の権利と同じレベルで対抗することのできる利益、つまり他の憲法上の権利を保護する目的でなければならないということだと思います。
払猿:そういうことです。
そうしますと、本問のあてはめはどうなりますか?
神渡:B県公安委員会が持ち出した利益は「市民の平穏な生活環境」や円滑な「商業活動」の確保です。前者の利益は憲法上明文規定がありませんから、私としては憲法上の権利ではないと考えます。
もっとも、後者の利益は、「職業選択の自由」で保障された憲法上の権利ですから、この利益に関しては「目的が不可欠」であるといえます。
次に、手段ですが、不許可処分が目的達成に必要な最小限度かが問題となります(あれ?ここでは、B県公安委員会の不許可処分が問題となっていたわよね。不許可処分はB県条例3条1項4号、B県住民投票条例14条1項2号、3号の要件にあたるからなされたのよね。その不許可要件該当性判断の妥当性をAの代理人として争うべきではないのかしら?私は、今何を問題にしているの?)。
すみません、自分で言っていて分からなくなってきました。
この問題では、B県公安委員会の不許可処分の違憲性を問題にしています。そうしますと、不許可要件にあたるとした公安委員会の判断の違憲性が問題になる気がします。
その違憲性は「厳格審査」基準などの基準では判断することが出来ないように思えてきました。
払猿:良いところに疑問を持ってくれました。
そうですよね。本問は、不許可処分という行政の「処分」の違憲性が問題となっているのです。「厳格審査」基準や「LRAの基準」は法令審査で通常用いられる審査基準なのですよ。
それでは、この問題どうしましょうか?
・・・その4へ続く。